【KAC20234】深夜に散歩をしたものの末路

猫月九日

深夜の獣達の散歩で起きた出来事

 底辺Web作家であるところの僕は、あまりのその不甲斐なさかに天才ハッカーである妹にノベリストAIロボット、アイザックを与えられた。

 そして、今日もアイザックと共に、小説を書いていきます。


 ここは弱肉強食の世界。

 弱いものはすぐに食い物にされるそんな世界。

 そんな中、毛皮をまとった男が夜の山道を歩いていました。

 今日は昼間にいい鳥を捕まえることができたのでご満悦な彼は機嫌良く夜道を散歩しています。


「ーッ!!」


 つかの間の静寂せいじゃくを楽しんでいると、急に悲鳴が聞こえてきました。


「誰か!助けてくれ!」


 そして助けを呼ぶ声。

 彼はすぐさま声に向かって走り出します。

 声の元にかけつけると、そこには女の子とそれに襲いかかろうとしているらしい暴漢の姿がありました。


「何をしている!」


 ここは自分のナワバリだ、その中での狼藉ろうぜきは許せない。

 すぐさま暴漢に襲いかかります。

 彼はこの辺りでも一番を誇る猛者でした。

 多少の暴漢程度は敵ではありません。


「くっそっ!」


 たまらず、暴漢は吠え面をかいて逃げ出しました。


「あ、ありがとうございます」


 助けた女の子はよろけながら彼に寄ります。


「何かお礼を……」


「ふんっ、助けたつもりはない」


 彼は一匹狼。

 ただ自分の場所で勝手をするやつが許せなかっただけだ。

 だから、女の子にも興味がありませんでした。

 しかし、


「……か、可憐だ」


 寄ってきた女の子を見た瞬間、思わず彼の口から漏れ出ました。

 今まで生きてきた中でも一番と言っていいくらい自分好みの女の子だったのです。


「……?」


 不思議そうにこちらを見て首をかしげる姿すら可愛い。

 しかし、自分は一匹狼。

 ちょっと、いやかなり好みの女の子を見たところで簡単に生き方を変えたりは……


「……お前、怪我をしているのか?」


 ふと、彼は気が付きました。

 女の子の足に血のようなものがついています。


「これは……ええ、ちょっと先程」


 どうやらさっきの争いで怪我をしたようだ。

 そうなれば話は別だ。

 一匹狼ではあるが怪我をしている女の子を放置するほど冷たくはない。


「ついて来るといい、怪我が治るまで休める場所に案内する」


 そう言って、彼はゆっくりと歩き出します。

 そう女の子がついてこれるくらいにはゆっくり。

 ちょうどいい言い訳を手に入れた。


「ありがとうございます」


 大人しくついてくる女の子。

 こんな素敵な出会いがあるなんて、夜の散歩をしていて良かった。

 柄にもなく、彼は神に感謝します。

 彼は女の子を自分の家に案内するつもりでした。

 そこにちょっとした下心があることは否定できないでしょう。


 今日はいい日だったなぁ。

 そんな事を想いながら自分の家に歩いていると、


「ふふっ」


 笑い声が聞こえました。

 不思議に思って振り返ると。


「うぐっ!?」


 突如首元に強烈な痛みが彼を襲います。

 なんだ!何が起こった!?

 見ると、首元に噛みついている女の子。


「なにをっ!?」


 慌てて女の子を払おうとしますが、女の子の噛みつく力は強く離せません。

 次第に、彼の力は抜けていき、そのまま意識を失いました。

 そんな彼を見て、女の子は笑みを浮かべます。


「ふふっ、今日はいい日ね」


 捕まえようとした獲物に反撃を受けそうになった時は困ったけど、もっといいえものに巡り会えたもの。

 そうして、女の子は彼の身体を引きずって自分の家に帰ります。


 そう、この世界は弱肉強食。

 油断した弱いものは食べられる世界なのです。




「おおっ……」


 物書きAIであるアイザックが作った物語を聞いて思わず感嘆を漏らしてしまった。

 天才であるところの妹が作った物書きAIであるアイザックは優秀だけど、少しずれている。

 しかし、今日の物語は良かった。

 テーマである『深夜の散歩で起きた出来事』にもピッタリ。

 ちょっとした吸血鬼っぽいホラー要素みたいなものもあり、落ちも好みだ。


「どうやらご満足いただけたようで」


 僕の反応にアイザックもご満悦だ。

 ちょっとこのくたらしい笑みを浮かべている。

 しかし、内容が良かった以上、何も言えない。


「まぁ、ともかく、内容はこれで投稿しようか」


「了解しました。予約しておきます」


 ということで、ちょっとした短編を投稿することに決めた。

 はぁ、テーマを聞いた時はどうかと思ったけど、すんなり出来上がってよかったよ。



「しかし、マスターさんが動物物が好きだとは思いませんでしたよ」


 うん?


「動物?」


「はい、マスターさんは猫派だと思ってましたが、犬もいけるんですね」


「犬?犬がどこに出た?」


 出てきたのは主人公である男と女の子、それと暴漢だけだけど。


「どこというか、ずっとですが?」


 何を言っているのかという表情で返された。

 えっ?ちょっと待って、


「もしかして、この主人公って……犬?」


「はい、一匹狼と言っているじゃないですか」


 確かに言ってたけど、まさか文字通りとは思わなかったんだが?


「えっ?それじゃあ、最後の吸血鬼みたいなのは?」


 首元から血を吸ってた演出でしょ?


「単純に獲物の首に噛みついただけですが?」


「血を吸ってるとかじゃなくて捕食行動かよ!」


 夜に漁師が吸血鬼に出会ったみたいな話だと思ってたらただの野良犬同士の争いだった件。

 なんか、そう聞くとなんかイメージが変わる……

 しかし、考えてみれば至るところに伏線が……


 夜の山道に毛皮の男、獲物の鳥……

 至るところにある一匹狼にナワバリ……

 考えれば考えるほど、ぴったりくる。

 これはそのまま投稿していいのか?


「……まぁいいか」


 それはそれで面白いし、わかる人だけわかればいいや。

 結局そのままにして僕はそれを投稿することに決めた。

 ただし、タイトルはちょっとだけひねることにした。


『深夜の獣達の散歩で起きた出来事』


 これは、獣(野良犬)達がただの散歩するだけの物語。



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