深夜の空中散歩

冨平新

深夜の空中散歩

 「お嬢様、お召し上がりになりたいものをおっしゃってください。

すぐにご用意いたします。」


 メイド長のアイン・ミラーが、

『ぽんぽこぴーな』になってしまった三恵子みえこ

食べたい朝食メニューを聞いた。


 (・・・私は、『ぽんぽこぴーなの冒険』の

ぽんぽこぴーなになっちゃったんだ・・・。

・・・よし!こうなったら、思い切って、

ぽんぽこぴーなに成りきってみようっと!)


 「コーンクリームスープと、牛乳と・・・えっと・・・

イチゴジャムをたっぷり塗ったトーストと、それから、

プリン・・・プリンアラモード!」


 「かしこまりました。」


◇◇◇


 その夜。



 バタン!!!


 いきなり大きな音がして、

三恵子は飛び起きた。



 ヒュー・・・


 上の方の大きな窓が開いていた。

 強い風が吹き込んでくる。



 すると、


 バサッ・・・バサッ・・・バサッ・・・


 大きな白い鳥が、窓から入ってきた。


 「うわあっ!」


 三恵子の目の前に、

その鳥がやってきた。


 大きな白いつばさを広げて

鳥のように飛んできたのに、

くちばしが無い。

 

 片方の翼が、三恵子の身長ほどもある。

 大きな鳥、のような、もふもふ。

 翼も、身体も、超もふもふ。


 「もしかして・・・スチュワート?」


 『ぽんぽこぴーなの冒険』に出てきた、

三恵子が一番好きな登場人物だ。


 「ぽんぽこぴーな様の『もふとも』、

スチュワートでございます。

深夜にお邪魔じゃまいたします。」


 三恵子は、嬉しさのあまり、

目を大きく見開き、口も大きく開け、

少し涙ぐんだ。


 (あのスチュワートに、会えるなんて・・・)



 「さあ、お嬢様、冒険です!

今夜はどちらに参りましょうか?」


 (えっと・・・たしか・・・)

 三恵子は隣町の名前を思い出した。

 「隣町のダウニー町に行きたい。」


 「かしこまりました!

それでは、私の背中に!」


 三恵子は、スチュワートの

白いもふもふの背中によじ登って、もれた。


 「しっかりつかまっていてくださいよ!

それっ!!」


 スチュワートはいきおいをつけて、

窓の方向へ走ると、

はずみをつけて、深夜の空へ飛び立った。



 バサッ・・・バサッ・・・バサッ・・・



 「今夜も、まずは、

深夜の空中散歩、といきましょう!」

 スチュワートが三恵子にそう言った。

 


 三恵子は、大きな鳥の背中につかまって飛んでいる。

 前面から吹き付けるすさまじい風を受けながら、

延々と広がる宝石箱を見下ろしている。


 「綺麗きれい・・・。」



 とてつもない高揚感こうようかんが三恵子をおそった。

 思いきり、息を吸い込むと、


 「ワァーーーーーッ!!!!!」


 経験したことのない感覚におぼれそうな三恵子は、

笑顔になって絶叫ぜっきょうしていた。


 「はっはっは!気分爽快ですか?」


 「スチュワート!いい気持ち!最高!」

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深夜の空中散歩 冨平新 @hudairashin

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