街中に吹かれる風が涼しい

!~よたみてい書

暗闇街道

「他の人に見られていなければよいのですが……」


 漆黒に包まれた石造りの町の中を何度も見渡していく。

 といってもこんな夜中に出歩く人なんて滅多にいない。

 

 するとリオンは小さく笑いながら暗闇に声を響かせていった。


「はははっ、どうしたんだよアリシア。そんなに夜の町を歩くのが怖いのかい?」

「いえっ、違います! こんな夜中に歩いていたら明らかに目立ちます! 他の人に怪しまれないか心配で」

「アリシアは心配性だなぁ」

「だって、話題にでもなったらリオンが困るでしょう? 他の人に、あのリオンはパイヴン――主に夜での活動を好む人型の種族――なんじゃないかって噂にでもなったら……きっと町の人はリオンのことを放っておかないはずです。攻撃されるなんてことも。わたしは他の人に見られてもいいんですけど。夜更かしして出歩く不埒な女って思われるだけでいいですし、なんとでも言い訳出来ますし」

「ほら、足元気を付けて、そこの地面でっぱりが――」

「きゃぁっ!?」


 周囲ばかり見ていて足元をおろそかにしてしまった。

 体が前方の地面に勢いよく吸い込まれていく。

 ああ、どれくらいの痛みを受けるのだろうか。

 なんて考えが頭の中で巡ったけど、その心配がなくなった。

 急に現れたわたしの体を支える何かにより、宙に浮かんでしまっている。


 大きく揺れている、手に持っていた照明がリオンの微笑みと細くて美しい白髪を照らしていた。


「って、言うのが遅かったね。大丈夫かい? 怪我はしてない?」


 恥ずかしい。

 転びそうになった、いえ、転んでしまった間抜けな姿を見せたことだけでなく、わたしの重みをリオンに知られてしまった。

 自分の顔が紅潮しているのが分かる。

 だけどうまく言葉にはできないけれど、その理由はそれだけじゃない気がする。

 体の奥からなにかぽかぽかと温かいものが溢れてきて、次第にそれが煩(わずら)わしいほどの高熱へと変化していく。

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