【完結】 武士の果たし合い

ファンタスティック小説家

武士の果たし合い


 JAPANへの渡航が決まった時、私は有識者から「かの国では深夜、外を出歩いてはいけない。絶対だ」と言われた。理由を聞いたが教えてはくれなかった。私含め普通のアメリカ人は理解することは決してできないと言った。


 しかし、JAPANで過ごしたあの夏の夜、私はその理由を知ることになった。


 もう2年前になるだろうか。

 あれは8月初め、蒸し暑い夜だった。

 私は大学の姉妹校のツテでJAPANに半年の留学をしていた。


 帰国まであといくばくもないとある夜、私は来日前に有識者に言われた言葉を思い出し、つい魔が差して、深夜1時、宿を出て散歩に出かけたんだ。


 そこで私はどうしてこの国では深夜に外を出歩いてはいけないのかを知った。


 満月の夜、冷たい光のふりそそぐ通りを歩いていると、ただならぬ雰囲気を放つJAPAN人の男を見つけた。すごい覇気だったので思わず電柱の影に隠れた。


「獣の脱衣」


 異変はすぐに起こった。男が文言をつぶやくと服が弾けたのだ。なにが起こったのかわからなかった。

 圧倒され、口を大きく開けたまま固まっていると、通りの向かいから別の男がやってきた。


「示現流脱衣、ちぇすとぉ!」


 男が手で印を結ぶと、こちらの服も弾けた。

 私は衝撃に脳を焼かれたが、それと同時に彼らがなにをしているのか理解できた。


 古くよりJAPANには武士道が伝わってきた。武士道教育は今日の日本でも健在であり、選ばれし武士たちは着衣、脱衣、満足の三技能を厳しい修行を乗り越えて会得するという。


 私のなかですべての情報が繋がった。深夜、この国では果たし合いが行われるのである。武士同士の正々堂々たる果たし合いが。


「その脱衣……薩摩の伝統的脱衣術と見受けられる」

「そげなおまえは名もしたん流派じゃけ」

「なにを言ってるかわからない」

「ちえ! 示現流強制着衣!」


 脱衣を見せあい、変態たち、いや、武士たちの果たし合いは着衣へと移行した。


 男は印を結び、両手を突き出し、相対する武士にタンクトップを3枚まとめて強制着衣させた。私もまた勢いに呑まれ、気がつけばタンクトップを服のうえから着せられてしまっていた。


 ただ、見ただけでこの着衣。相当の使い手なことは間違いなかった。流石はJAPANの武士。レベルが高い。そのことだけはわかった。


「悪くない、だが、足りない」


 タンクトップ3枚を着せられた武士は「ふん!」と力むだけで、服を砕き、全裸になる。


「ばかなっ! おいの着衣を覇気だけで!?」

「獣の着衣」

「な、こ、これは、ぐああああ!?」


 示現流の使い手は瞬く間にダウンジャケットを重ね着させられ、膝から崩れ落ちた。


「獣の満足」

「バカな、こんな、着衣……の使い手が……」

「お前は実る。この領域まであがってこい」


 恐るべき武士は一糸纏わぬまま去っていった。


 私は圧倒されていた。余波に飲まれ、ダウンジャケットを死ぬほど厚着させられ、朦朧とする意識のなか、武士道の深さを思い知った。


 あれから2年が経った。

 私は日本に帰ってきた。

 あの深夜の散歩で起きた出来事は、私のなかに強く残り、そしてこの国に呼び寄せたのだ。


 私はこの国で武士道を学ぼうと思う。

 そしていつか合間見えるのだ。あの男に。










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