出会いの予感【KAC20234】

松浦どれみ

夜道が危険なのは予感ではなく理解すべき


 私には少し不思議な力がある。それはすごく精度の低い予知だ。


 衝動的に番号くじや馬券を買ってみて当たったり、仕事で失敗したりと吉凶の区別まではつかない。なにかいつもと違うことが起こる。だから精度は低い。


「う〜ん、気持ちいい」


 今日は夜中に予感がして散歩に出てみた。けど夜風が気持ちいいだけで何も起こらない。そんな日もあるかと歩いていると。


「いたっ」

「動くな」


 急に二の腕に痛みが走った。反対の手で触るとぬるっとした感触が指先を支配する。たぶん、切られた。背後から聞こえる男の声に体がこわばった。動けない。


「え? 痛い……やめてっ!」

「動くと死ぬぞ!」

「うう……」


 声の主は私の手足や腹、首を切りつけていく。痛い、熱い。でも動くと殺されるらしい、逃げ切る自信もない。


「よし、こんなもんか」

「た、助けて……」


 私の懇願こんがんに、男は目の前に回り込んできて、不思議を言葉を残して去っていった。


「そのまま朝まで動くな。くっついてから帰れ」


 その声は低くこんな状況なので本当に恐ろしかったけど、なぜか表情はすがるように懇願していた。だから私は彼の言うことを聞き、切れたところがくっつくようにその場を動かず待ち続けた。



 ある日、寂れた商店街にある洋食店。

 同じ商店街に店を構える白束装子しらつかしょうこは隣で書店を営む黒井くろいと遅めの昼食をとっていた。


「あの人、そこの刃物屋さんですよね?」


 装子は別な卓にいる坊主頭の男を指し黒井が頷く。


「ええ。今日は声をかけない方が……。きっと落ち込んでいます」

「ふうん」

「彼は切ってもその組織がくっつくくらい切れ味のいい包丁を作りたいそうで」

「なるほどね〜」


 確かに男がテーブルを叩き「またダメだったか!」と顔を歪めていた。


 黒井の言葉の意味は深追いせず装子はテレビのワイドショーに視線を送った。


『今朝、市内で発見された女性の死因は失血死で、全身数十箇所を切りつけられており……』

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