真夜中の徘徊者

澤田啓

第1話 あいたい

 今夜も眠れなかった、あの日からずっとずうっとこうだ。


 君を恋人を失ってから僕は、君が恋人が消え去ったこの場所でこの時間に、また君に恋人に逢えるのじゃないかとかすかな希望を抱いて立ち尽くしている。


 もしも君に恋人に、あの日あの時に離ればなれに別離わかれた君を恋人を僕の眼に映すことが叶うなら、君が恋人があの日と姿形が変わり果てていたとしても、そんな些細なことを気に留める必要もないくらい僕は君を恋人を愛して止まないんだよ。


 あの時に何で……君よ恋人よ、二人に向かって猛スピードで突っ込んできた車に、僕を突き飛ばして僕たちを引き離してしまったんだい?


 たとえ僕が助かったのだとしても、君と恋人と僕が今生の別れを手に入れてしまったのならば、そんな哀しい結末になんてなんの価値も意味も見出せないことを、君も恋人も知っていた筈じゃあないのかい?


 あの日あの時の苦い記憶が僕をさいなむように、君も恋人も狂おしく後悔の刃に心の奥底にあるあの場所を抉られているのじゃあないのかい?


 君が恋人が何を考え何故にあのような行為に及んだものやら、今となっては誰に訊ねることも問いただすこともできる訳はないのに、あの日あの時に君の恋人の真実ホントに望んでいた未来を僕にも見せてあげて欲しいんだ。


 そうすれば少しでもほんの少しだけでも、僕の無念も未練も絶望ですら、何かこれからの生活くらしに向けた糧になるのかも知れないから。


 そうしてついに今夜、僕の宿願が果たされるべき瞬間がやってきたんだ。


 君と恋人とが、この昏く寒々しい午前二時に肩寄せ合って僕の待つこの場所へ歩み寄ってきたんだ。


 それは深夜の散歩なのか、それとも僕への鎮魂なのか、僕を車に向かって突き飛ばした君と、僕を轢き殺した運転手の恋人と……君と恋人と……二人の罪を贖ってくれるのかい?


 嗚呼……あと少し、ほんの少しの距離と時間を過ごせば……君と……恋人と……。

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真夜中の徘徊者 澤田啓 @Kei_Sawada4247

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