ゆめかうつつか

榮織タスク

どこからが夢で、どこまでが現実なのか

 多聞がその日、日付が変わる前に家を出たのに特に理由はなかった。

 だから、何で自分が極彩色の穴の中を通り抜ける事になったのか、理解できない。


「さあ、ほらほら急ぐよ! 残り7時間しかないんだから」

「7時間って言われても!」


 多聞の手を引いているのは、少女だ。見た目は年下。

 何やらとっても慌てていて、多聞の手を取るや「行くよ!」と叫んで穴に飛び込んだのだ。近所にこんな奇妙な色彩の穴があった記憶はない。もしかしてこれは夢で、本当の多聞は家で寝ているのだろうか。


「おお、召喚は成功だ! 勇者よ、我らのせか」

「はいはい省略省略」

「ええっ!?」


 穴から飛び出した先は、どことなく陰鬱な薄暗い部屋。

 かけられた偉そうな声に反応するのも許さず、少女は多聞の手を強く引く。

 結構な力で引かれているのに、痛みはない。そして物凄く足が速い。景色が高速道路のように流れていく。そのスピードについていける自分も。やはり夢か。

 と、少女が何かを撥ねて止まった。飛んで行ってしまったので、何にぶつかったのかは分からない。目の前には、台座。


「さ、これ持って」

「これって、剣?」

「そうそう。面倒な条件があってさ。じゃ、行くよ」


 無造作に引き抜いた剣を多聞に手渡し、また走り出す少女。剣を水平にかかげといて、と言われたのだが、危なくないのだろうか。


「だいじょぶだいじょぶ。目的以外のやつには当てないって」

「誰かには当てるの!?」


 少女は答えず、ひたすら走り回る。

 時々右手にかかる衝撃の正体が何なのか、怖くて多聞には聞けない。

 何度目かの衝撃のあと、少女がようやく足を止めた。

 見ると、目の前には首を落とされた化け物。悲鳴を飲み込んだ多聞の腕を、やっぱり少女が引っ張って。


「よし間に合った! 帰るよ!」


 再びの極彩色。

 気がついたら自宅のベッドに横たわっていた。多聞は夢だと結論付けて、握っていた剣の存在を全力で無視した。

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