あの日、私は運命を変えられた
下等練入
第1話
午前三時。
誰にも邪魔されない特別な私だけの時間。
この時間に活動するようになったきっかけは、試験前に徹夜したら生活リズムが狂ってとかいうくだらないものだった気がする。
ただ早寝して深夜に起きるというのは結構いいもので、この時間なら誰からもLINEが来る事はない。
SNSも数十分前に投稿された『おやすみー』というのを最後に沈黙している。
ぼーっと道を歩きながら深夜の空気を肺に取り込むと、少しだけひんやりとした空気が私の身体を目覚めさせてくれる。
そんな私だけの深夜が変わったのはつい一週間ほど前だった。
「あ、どうも」
ある日相変わらず街頭以外光のない街を歩いていると、大学生ぐらいの女の人に会釈された。
回りかけの頭で何とか私も挨拶を返す。
そこから毎日彼女とすれ違ったが、会釈以上の関りを持つ事はなかった。
ただその日だけは違った。
街頭に照らされるあの人の影が見えたので、また会釈をしようと軽く頭を下げると、彼女が私の腕を掴んできた。
「え、な――」
突然の出来事に思わず叫びそうになったが、口をふさがれ何も言うことができない。
どうにか彼女を振りほどけないか体を動かしていると、彼女は私の耳元で囁いた。
「あと30秒待ってすぐ終わる」
(え、すぐ終わるってなに? 何されるの?)
これから何が起こるかわからない恐怖から背中に冷たい汗が流れるのを感じていると、爆走した車が私が曲がるはずだった十字路を横切っていった。
「ごめんね、これでもう大丈夫」
その女性はさっきまでの重苦しい雰囲気と違い、優しく笑いかけながらそう話してきた。
「え、大丈夫ってなんなんですか……?」
「あーこれこれ」
そう言うと彼女はスマホを見せてきた。
そこには強盗殺人のニュースが写っている。
「え、これは?」
「ほら、ここよく見て」
彼女が指さした先には、被害者として私の名前が載っていた。
(え、どういうこと?)
「これは明日流れるニュース。貴女は本当ならさっき強盗と鉢合わせて死ぬはずだったの」
(明日ってなに?)
その人に言われてよくニュースを見ると、確かに配信日は明日の日付になっていた。
「意味が分からない……。なんで?」
「大丈夫よ、今はわからなくても。いつかきっとわかる日が来るわ」
彼女はそれだけ言うと溶けるように暗闇の中へ消えてしまった。
◇
翌日配信されたニュースに私の名前は載っていなかった。
あれは本当に現実だったんだろうか。
そんなことに頭を支配されながら数日過ごしていると、ポストの中に不在票が入っていた。
「あれ、なんか頼んだっけな?」
全く思い出せないが、お母さんからの仕送りの可能性もあるしとりあえず受け取っている。
それは何の変哲もない6缶パックほどの大きさで、茶色一色の段ボールだった。
「まあ開けてみればわかるか」
そうガムテープを切り開くと、そこにはカバーも保護フィルムもついてないスマホと一枚のメモが入っていた。
『貴女には過去に飛んでもらいます。今後はすべてスマホでの指示に従ってください』
その指示を出してくれるというスマホは、あの時女の人が持っていたものに似ている気がした。
「え、いや、嘘でしょ?」
あの日、私は運命を変えられた 下等練入 @katourennyuu
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