第15話 結婚前夜

 時は瞬く間に過ぎ去り、結婚を翌日に控えたある夜。

 私はなかなか寝付けなかった。

 今日、結婚式で着るドレスが私の元に送られて来た。

 お母様がデザインし、最高の仕立屋に作らせたものだという。

 手紙によるとお父様は私の花嫁姿を楽しみにしていて、結婚式の様子を永久保存する為に絵師も雇っているのだとか。

 どうも自分が思っていた以上に、私は両親に愛されていたらしい。

 結婚式の花嫁衣装はマノリウス家で着付けをしてもらうことになった。

 というのも、ハイネルは先月無事女の子を出産した。

 しかし産後一ヶ月では結婚式の出席は難しく、ならばせめて、ドレスの着替えを手伝わせて欲しいと申し出たのだ。

 メイドや使用人の数が少ないエルシア家。人手不足なこの状況で娘の花嫁衣装を誰に着せて貰うか、お母様も頭を悩ませていたらしいので、ハイネルの申し出はとても助かったそうだ。

 

 この日を迎えるまで、色々なことがあった。



 まず、アニタナが結婚をした。

 相手は男爵家の次男。かなり美麗な青年だが女癖が悪いという噂だ。

 アニタナは一人娘なので、その次男が婿養子としてストリーヴ家に入るらしい。

 結婚式の時、アニタナのお腹は少しふっくらしていた。


 バークル男爵は大金と共に上位貴族達にアニタナとの縁談を持ちかけていたのだという。

 アニタナは何としても私の結婚相手よりも、容姿や爵位が上の貴族を夫にしたかったらしい。

 しかしアニタナの妊娠が発覚。

 子供の父親は男爵家の次男と判明し、二人は急遽結婚することになったのだという。

 浮気性な婚約者に、アニタナは結婚式の間もずっと不機嫌だったみたいだけれど、自分も今の結婚相手と深い仲になっておきながら、上位貴族との結婚を望んでいたわけだからお互い様なのではないかと思った。


 その結婚式にはダニールも参加していた。

 アニタナの相手である男爵家次男とは従兄弟同士なのだとか。

 そのダニールも近々伯爵家の令嬢と結婚するらしい。あれから彼は白狼騎士団を去り、今は伯爵家の跡取りとして領地経営を手伝っている。

 アニタナの誕生舞踏会で新人騎士に勝負を挑んだ末、負けたという噂が広まっていたダニールは、白狼騎士団の恥だと罵られるようになり、騎士団に居づらくなったらしい。

 実際はダニールが弱かったわけではなく、ライデンが強すぎたのだが、騎士団の人間はそれが理解できなかったようだ。

 数少ない実力者だったダニールが去ったことで、ますます弱体化に拍車がかかった白狼騎士団はついに解散したという。


 結婚後も私はハイネルの侍女として働く予定だ。

 今までは住み込みだったが、結婚後はストリーヴ家の新居から通いになる。

 だからこの部屋で過ごす夜も今日で最後。

 私がこの部屋を去った後は、ハイネルの娘の乳母が住む予定らしい。


 ライデンも引き続きマノリウス家の騎士として働くことになっている。

 ストリーヴ伯爵も伯爵夫人もまだ若くて現役。領主を引退する程の年ではない。

 ライデンも暫くは余所で社会勉強をした方が良いというご両親の考えもあり、本格的に爵位を継ぐのはもう少し先になるそうだ。


 色々考えている内に、だんだん眠くなってきた私はゆっくりと目を閉じた。 

 明日は結婚式。

 ライデンとの結婚が嬉しいと思う反面、結婚する自分が未だに信じられずにいた。







 


 

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