第14話 夢占術師のヒルダ
それからはもう、トントン拍子に話が進んでいった。
ストリーヴ伯爵も、伯爵夫人も、それまで剣一筋で女性に全く興味を示していなかった息子の将来を心配していたのだという。
しかし、そんな息子がある日突然縁談を望んだものだから二人は大喜び。
私はストリーヴ家の救世主として、歓迎されることになった。
しかもストリーヴ家は代々軍務を担う貴族。女性にも強さが求められ、ライデンの母親も騎士ではなかったものの剣の心得があるのだという。
まさに私にとっては打って付けの嫁ぎ先だったようだ。
私達はすぐに婚約することになり、二ヶ月後には結婚式を挙げることになった。
◇◆◇
ある日ハイネルは一人の夢占術師を招待し、お茶会を開いていた。
来月には臨月を迎えるハイネル。
お腹をさすりながら、タンポポ茶を一口二口飲んでいた。
マノリウス邸の庭園は今、薔薇が見頃の季節を迎えていた。
ガゼボに設置された丸テーブルの上には、色とりどりのクッキーやケーキなどのお茶菓子が並んでいる。
「夢占術師のヒルダ=リヴィエと申します」
ヒルダは王室お抱えの夢占術師だという。
声を聞いた限り、ヒルダは私達とあまり年齢が変わらないように思えた。
顔はフェイスベールで覆われているので、本当の年齢は分からない。しかし目元を見た限り、やはりまだ若いように見えた。
ハイネルとケンリック様を結びつけたのも、彼女の夢占術の活躍が大きかった。
占って貰ったのを機に、ハイネル自身も夢占術に興味を持つようになり、時々ヒルダを招待してはこうして、夢の雑学について語らいながら、ゆっくりとお茶を飲んでいるのだという。
私もふと気になったことがあったのでヒルダに尋ねた。
「あの……実は私、夢を見るのです」
「どんな夢ですか?」
首を傾げるヒルダに、私は夢の内容を思い出し思わず赤面してしまう。
く、詳しい内容は省いて説明しないと。
「……今の婚約者と夫婦になる夢です。でも、その夢は彼と婚約するずっと前……彼と出会った時から見るようになったのです。もしかして予知夢か何かなのでしょうか?」
私の言葉に紅茶を飲もうとしていたハイネルが驚いたようにこちらを見た。
そういえば夢のことはまだ彼女にも話していなかったな。
ヒルダは少し考えるように天を仰いでから、こちらを見て尋ねてきた。
「もしかして、婚約者の方も同じ夢を見ていたりしますか?」
「は、はい。婚約者も同じ夢を見ています」
「だとしたら予知夢ではありませんね。前世の出来事だと思いますよ」
「え……?」
前世の出来事?
目を瞠る私にハイネルもうんうんと頷いて私に言った。
「私とケンリック様もお互いが夫婦だった夢を見たのよ。その夢が私達を導いてくれたの」
「そ、そうなのか!?」
「私達の夢は、この国にとっては慶兆だったみたい。だから国王様が私達の結婚を後押ししてくださったのよ」
王家の血筋であるマノリウス家の子供が一人娘だった場合、必ずリーベル家の次男と結婚しなければならないという、謎の習わしがこの国にはある。ハイネルとケンリック様はその習わしに従って結婚したのだと思っていたけれど、理由はそれだけではなかったらしい。
まさかハイネルとケンリック様も二人して同じ夢を見ていたなんて。
「私達の場合は出会う前からお互いに同じ夢を見ていたから、実際に出会った時の感動は今でも忘れられないわ」
ケンリック様との出会いを思い出しているのか、ハイネルは頬を赤らめて嬉しそうな笑みを浮かべていた。
ヒルダが私達に提案をしてくる。
「よろしければお相手の方と一緒に、あなたたちの夢を診させていただきましょうか?」
「……!?」
それを聞いたハイネルは、そばに控える使用人に「ケンリック様とライデンを呼んでくれる?」と頼んだ。
使用人は一礼するとすぐにケンリック様とライデンを呼びに行った。
ティーセットはメイド達の手によって片付けられ、ガゼボは瞬く間にお茶会の場から、占いの場に変わった。
私とライデンはヒルダと向かい合って座ることに。
ハイネルは「ちょっと散歩に行ってくるわ」と、ケンリック様と腕を組んで庭園内の散歩をすることに。
たぶん気を利かせてくれたのだろうな。
ヒルダはテーブルの上に台座に載った水晶玉を置く。
両手にすっぽり包めるくらいの大きさの水晶玉。
私から見たらただのガラス玉にしか見えない。
けれどもヒルダが両手をかざすと水晶玉が淡い輝きを放った。
「ああ……前世のあなた方は異世界に住んでいたようですね」
「「異世界?」」
私とライデンは思わず同時に尋ねていた。
ヒルダはコクリと頷いた。
「ええ、こことは違う世界です。今は平和なこの世界と違って、国同士が争う戦乱の世にあなた方は生まれたようです。 あなた方は敵同士で、戦場で戦っていたこともあったようです」
そういえば、ライデンと一番初めに剣の手合わせをした時、既視感のようなものを感じたことがあった。
前世では敵として戦った記憶が残っていたのかも知れない。
「しかし国同士が和平の協定を結ぶことになりました。その証としてあなた方は結婚をすることになったのです。あなた方は敵同士ではありましたが、とても愛し合ったようです」
そうだ。
夢の中で私はライデンに溺愛されていて。
私自身も彼を拒めなかった。
敵同士でありながら夫婦になり、お互いに惹かれるようになった……戦乱という時代の中、それは許されているようで、許されなかった想いだったのではないだろうか。
前世の私達のことを思うと、今世はライデンと同じ国に生まれてきたことに感謝したい気持ちになった。
お互いの家族も私達の仲を心から祝福してくれている。
ライデンと私は顔を見合わせ笑みを交わす。
夢占術師はそんな私達の様子を微笑ましそうに見詰めながら言った。
「あなた方は結ばれるべくして結ばれたのですよ。ご結婚おめでとうございます」
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