第67話 阻害 ~梁瀬 1~
西浜で戻ってくる術を待っているあいだ、クリフが北浜と南浜からの情報を集めてくれた。
東区で火の手が上がったと聞き、対応に向かった穂高たちの状況も、同行のジャセンベルの兵に聞き及んでくれている。
さすがに中央まではまだ誰もたどり着いていないからか、クリフでは情報の取りようがないらしい。
それでも、どうやら巧と岱胡が中央へ向かったという情報が入ってきたのは心強い。
梁瀬が中央へ向かうころには、様々な状況が掴めるはずだ。
泉の森で巫女たちが祈り、増幅した術の威力はどれほどのものなんだろうか。
杉山や神田の話しだと、やはりシタラは亡くなっているようだ。
対応する巫女は二番巫女だったカサネなのだろうか。
それともほかの巫女なのだろうか。
疑問ばかりが湧いて不安になる。
麻乃のこともそうだ。
鴇汰と修治はうまくやっているんだろうか。
まさかやられていることはないと思いたいけれど、麻乃の本気に、二人はどこまで本気になれるのか……。
「笠原隊長!」
修治の部隊の神田が駆けてくる。
「どうしたの? なにか問題が?」
「中央に各浜から先陣が侵入してきたと連絡が。元蓮華の方々と拠点を引き揚げた隊員たちで城へ誘導しているようです」
「やけに早いなぁ……しかも各浜からか……」
「車や騎兵がありましたから、やはり少数では捌ききれなかったのかと思われます」
「そうだね。それにきっと、夜間もある程度は進軍したんだろうね」
西浜に残っていたロマジェリカ兵は、ジャセンベル兵の手で拘束され、今は船内に押し込められているようだ。
サムが案じていたヘイト軍はどの程度が最後まで進軍したのだろう。
「そういえば、シタラさまが亡くなられたあとだけど、やっぱりカサネさまが一番巫女に?」
「はい。ですがカサネさまは例の暗示にかけられた巫女の影響で、精神的に疲弊が激しいそうで、三番巫女のイツキさまが巫女さまたちを取りまとめられているそうです」
「イツキさまが? 僕、イツキさまにはほとんどお会いしたことがないなぁ」
「そう言われると俺もです。ですが、今回のことで元蓮華の加賀野さんや高田師範と、細かなやり取りをされていたそうですよ」
「へぇ……そうなんだ」
高田といえば麻乃と修治の師範だ。
鴇汰の父親の幼馴染でもあり、クロムとも繋がりがある。
その人とやり取りがあるということは、シタラとクロムのやり取りを受け継いでいるのはカサネだけではなくイツキもか。
カサネが精神的に疲弊しているのは心配だけれど、マドルの暗示にはかかっていないとわかってホッとする。
「それから、長谷川隊長は中央へ到着したそうです。三番部隊の隊員たちも半数近くが中央で敵兵の対応と援護に回っています」
「わかった。巧さんや穂高さんはまだだよね?」
「そのようです。それと庸儀の兵と一緒に、例の怪しい術を使う軍師が中央へ進軍してきたと、長谷川隊長から報告が上がっています」
「あいつか……」
梁瀬は庸儀の浜で見たマドルの姿を思い出していた。
あの西浜でのロマジェリカ戦以降、いろいろといいようにやってくれていたけれど、ここから先はそうはさせない。
これ以上、泉翔で好き勝手な真似をさせたりしない。
クロムは中立の立場を崩さないようだけれど、サムはきっと梁瀬と同じ思いだろう。
ただ――。
マドルが蒼き月の皇子だった場合、賢者としてはマドルのやり方に従うべきなのだろうか?
(そうだとしてもこんなやり方……到底納得なんかできるものじゃあない)
仮に大陸の枯渇した大地が芽吹くとして、それが泉翔をつぶしていい理由になどなりはしない。
麻乃を都合のいいように利用するのもそうだ。
暗示で動かしているのなら、そこに麻乃の意思などないも同然だ。
「笠原さん! 泉翔の戦士のかたも! もう間もなく、レイファーさまも中村さんも、中央部へ到着されるそうです!」
少し離れた岩場で、掲げた腕から式神を飛ばし、クリフが叫んだ。
「わかった! ありがとう!」
クリフに答えてから神田に向き直る。
「今、西浜に僕の隊員は残っているかな? 残っていたら、ここへ集めてほしいんだけど」
「確認してみます。俺はこのあと後処理の手伝いに入るので、直接ここへ向かうように伝えます」
「うん。お願い」
走り去る神田の背中を見つめながら、杖をギュッと握りしめた。
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