阻害

第66話 阻害 ~マドル 1~

 王の私室で椅子に腰をおろしたまま、城内を調べ終えたコウたちを迎えた。


「特に問題になることはないようだ。潜んでいる泉翔のやつらもいない」


「そうですか。では、このまま城内で麻乃を待ちましょう」


「あの人は土地勘があるから迷うことはないだろうが、途中、潜んでいた戦士たちに狙われたりはしないだろうか?」


 ハンは潜んでいた泉翔の戦士たちが、麻乃の進軍を阻止しようと動くのではないかという。


「確かに……泉翔側にとって麻乃こそ、自分たちを脅かす一番の存在でしょうから、なんらかの手段で進軍を止めようとするかもしれませんね」


「わかっていながら放っておくのか?」


「まさか。現在、各浜から同盟国の兵たちがこの中央へ進軍してきています。しばらくすれば、泉翔の戦士たちを数で上回るでしょう。そうなれば、泉翔側もおいそれと手は出せないはずです」


「それより早く、あの人が到着するかもしれない」


 ユンもハンに同じく、麻乃の動向を案じているようだ。

 以前はあんなにもジェに執心していたのに、今はその存在を忘れたかのように一度も名前を口にしない。


「その可能性は十分にあります。今は城内には最低限の人数を残し、あなたがたには麻乃が到着次第、援護に向かえるよう城門付近に待機していていただきたい」


「すぐに準備しよう。それで、あんたはどうするんだ?」


「私はここで術を使い、麻乃の様子と周囲の状況を探ります。ああ、それから万が一、交戦になったときに回復術を受けられるように、城門を出る際には私の側近を従えてください」


「わかった」


 コウたちが雑兵を連れて出ていくと、また城内はひっそりと静まり返った。

 椅子の背にもたれ、早速、麻乃へ意識を飛ばした。

 森の中を中央へ向かって走っている。周辺に人の気配を感じない。


(――兵を連れていない? すべて倒されたとは考えにくい。となると……ついてこられずに置き去りにされたか)


 マドルの側近の姿も見えないけれど、麻乃が怪我を負っている様子がないことから、目につかない場所で追っているのだろうと予測できる。

 周辺に目印となるものがないから、どのあたりにいるのかはわからないけれど、中央を目指していることはわかる。


 ただ、なにかを迷っている感情も伝わってくる。

 離れていたあいだに、なにかあったのだろうか。

 先へ進もうという意識と修治を倒そうという思いが強くて、その詳細までが掴めない。


(修治を倒す気でいるということは、まだ接触はしていないのか……?)


 上陸してからずいぶん時間が経っているのに無傷なのがその表れだと納得した瞬間、なにものかの暗示を解く術が放たれたことを思い出した。


(まさか――暗示が解けた――?)


 不安が過ったけれど、そうであればこうも簡単に同調はできないはずだ。

 それにこれは、通常の暗示とはわけが違う。

 たやすく解かれることはない。

 今の時点では麻乃の意識が強すぎてマドルが前面にでることができない。


(しばらくはこのまま、様子をみて位置と意識を探るしかないか……)


 不意に麻乃が足を緩めて止めた。

 視線の先に変わったものは見えない。

 数十秒、考え込む様子をみせたあと、浜の方向へ戻り始めた。

 なぜ戻ろうとするのか。


 気配とともに感情も殺しているようでなにも伝わってこない。

 微かに交戦中のざわめきが聞こえる。

 小走りで近寄り、大木に身を寄せた。


 ロマジェリカと泉翔の戦士が交戦している中に、修治のうしろ姿があった。

 目を細めて見つめていると、修治がハッとして振り返る。

 目が合うと麻乃はまた中央の方向へ走り出した。

 あとから修治が追ってくる気配がマドルにも届いてくる。


 西側への上陸に思うところがあったのは、武器を手に入れるためだけではなかったのか。

 修治を倒すつもりでいるのは、鬼神として目覚めた自信がそうさせているのだろうか。

 ロマジェリカで過ごしたときに「怪我なんかしない」と「あたしは大丈夫だ」と言っていたのを思い出した。


 確かに能力が上がった今、敵はいないに等しいだろう。

 それでも、マドルから見て修治の存在は危うい。


 どうにかマドルの意思を前面に出し、中央へ進ませたいと思うのに、麻乃の思いが強すぎで抑えることができない。

 どのくらい走り続けただろう。

 木々の少ない開けた場所へ出ると、麻乃は立ち止まり、修治を振り返った。

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