第61話 進軍 ~マドル 2~

 中央へはもう僅かだ。

 先へ進み、ついに中央の手前までたどり着いた。

 この先に泉翔の戦士たちが潜んでいるともかぎらない。


 慎重に周囲を探った。

 その気配は感じないけれど、警戒して損はないだろう。

 ここから城まで最短で向かうために、姿を隠してコウたちを待った。


 色とりどりの葉が茂った木々が邪魔をして城が確認できない。

 迷って時間をかけるくらいなら、同行したほうがいいだろう。

 少し待つと、コウたちが現れた。


「思った以上に早い到着でしたね」


 声をかけられてハッとして振り返ったコウたちは、マドルを見ると安堵の表情をみせた。


「あんたこそ、ずいぶんと早かったじゃあないか」


「進軍中に変わったことはありませんでしたか?」


「変わったこと……途中、ともに進軍していた部隊のやつらの様子が変わったか」


「ああ。急にざわついて、数部隊はルートを逸れていた。まあ、そのおかげで車が手に入ったが」


 チェとハンは顔を見合わせてそう答えた。

 やはり暗示が解けたのか。

 それでも結局は当初の予定通りコウたちが一番先にここへ到着してきた。


 これからまだ進軍してくるだろう会議に参加していたほかの部隊を待つために、幾人かを残して早速コウたちを伴って城へと向かう。

 中央はひっそりと静まり返っていた。

 襲撃されると知って一般人は避難させているのだろう。


 ただ、城へと続く最短距離の道に、そこかしこに潜んでいる気配がある。

 おそらく戦士たちだ。

 強引に進めば交戦となるが……。


「潜んでいるやつらがいるな……どうする?」


 コウたちも気づいて小声で問いかけてきた。

 それなりに大所帯ではあるけれど、この先になにがあるかわからない。

 城にも泉翔の戦士が待ち構えているかもしれないことを考えると、可能なかぎり兵数を減らしたくはない。


「この状況で潜んでいるのは侵入を防ぐための戦士でしょう。交戦は好ましくありません。まずは避けて進みます」


 マドルは式神の鳥を飛ばして周辺を探った。

 建物の陰や曲道の先に点々と戦士たちの姿が確認できる。

 泉翔の戦士たちも人数に限りがあるからか、大通りや近道以外は潜む姿が見当たらない通りがある。

 そういった道を選んで進軍を続けた。


 麻乃はまだ到着していないようでホッと小さくため息を漏らした。

 ジェもどこを進軍しているのか、まだ姿を現さない。

 庸儀の暗示が解けた兵たちも、少しずつ中央へ到着したようで、あちこちで泉翔の戦士たちと交戦が始まった喧噪が聞こえてきた。


 その隙にさらに足を速める。

 結局、最短距離を進む倍以上の時間と距離がかかったけれど、無事に城を目前にするまでたどり着いた。


「やけに静かだな」


「ええ。早い段階で避難をしたのかもしれませんね」


「城を捨てたということか……」


 城から西側と北側のあいだあたりに軍部の建物があったけれど、そちらも人の気配が少ない。

 東側へ向かう通りに沿って森が続き、その奥に神殿と泉があり、泉の周辺に避難場所があるはずだ。

 そのせいか森のほうからは大勢の気配を感じる。


 王族や軍の上層たちも避難をしているのだろう。

 巫女たちの結界が張りなおされていることを思うと、マドルが印を付けたものたちもその中にいるに違いない。


(だから同調ができないのか……)


 マドルの術も阻む強さがあるのは巫女たちの力がそれだけ強いからなのか。

 やはりさっきの術は巫女たちのものだろうか?

 それにさっきから、どこからともなく歌声のようなものが微かに聞こえてくる。


 若干の疑問を抱きながらも、コウたちとともに城の占拠へと動いた。

 城の中は完全に人の気配はなく、すんなり通れる。

 それでも念のため式神を飛ばし、くまなく城の内部を探った。


 大陸各国の城とは少しばかり造りが違い、部屋の配置などに戸惑わされる。

 書斎や会議のための部屋は、重要と思われる書類などがすべて持ち出され、僅かな食料とほんの少しの資材が残されているだけだった。


「中は誰もいないようです。ですが念のため、再度みなさんで城内の確認を。数時間もすれば麻乃も到着するでしょう」


 コウやユンたちは部隊を幾つかにわけて城内へ散らばって行った。

 マドルはそのあとに続き、大広間に足を踏み入れた。

 一番奥まった場所にある、王の私室らしき部屋の扉を開けた。


 人の目にはつきにくい場所だ。


 この場所ならば、腰を落ち着けて周辺を探ることも術を使うことも、麻乃に同調して様子を確認することも、安全にできそうだ。

 コウへと式神を飛ばして居所を報せておく。

 周りの状況に気を配っておくよう頼むと、私室の椅子に腰をおろし、深く息をついた。

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