第62話 進軍 ~高田 1~
中央へ一番はじめにたどり着いた庸儀の兵が南浜のルートから中央へ入るのを、高田は尾形とともに物陰から隠れみていた。
尾形はすぐに加賀野へ式神を飛ばしてその動きを知らせている。
各浜の拠点から少しずつ引き揚げてきた各部隊の隊員たちと元蓮華たちで、ルートから城までの最短距離になる通路をふさいだ。
敵も侵入してすぐに戦闘になることを避けたいようで、泉翔側が空けておいたルートに流れていく。
「やけに早く上がってきたのは車のせいか。なにやら急いでいるようにも見えるな……その割に慎重でもある」
「そうですね。恐らくは麻乃が到着する前に拠点とする城を完全に掌握しておきたいのではないかと」
庸儀の一団を眺めている尾形に高田は答えた。
二百人ほどの部隊が二部隊、そのほとんどが騎兵のようだけれど、所々に車で乗り入れている隊もあった。
「城を抑えたあと、やつらはどこへ手を伸ばすつもりでいるだろうか」
「馬や車があるとなれば、中央からならどこへでも向かえますが、今さら浜に用はないはずなので、戻ることはないかと」
「物資を探してあちこちを駆け回られるのは面倒だな」
「なんとか城に留めおきたいですね」
せっかく城へ誘導したのに、このあと島のあちこちへ移動されては、城を明け渡すよう進言してくれた皇子の思いを踏みにじってしまう。
クロムから聞いていた暗示を解く術はさっき一度目が放たれたようだ。
今は泉の森で巫女たちが力を蓄えている。
歌うような唱和と鈴の音が街中まで微かに届いてきた。
少し前まで焦る思いばかりが胸を締めていたけれど、独特のリズムがこんな時だというのに妙に気持ちを和らげる。
北浜に上陸した敵兵の多くは、恐らくヘイトの反同盟派たちによって引き下がるだろう。
南浜も北浜と同じである程度は引き下がり、抵抗する兵にはジャセンベルが対応するはずだ。
西浜は、主軸のロマジェリカと麻乃がいる。
ロマジェリカには、やはりジャセンベル兵が対応するようだけれど……。
(修治が来るか、麻乃が来るか……)
修治が来るのなら麻乃が、麻乃が来るならば修治が倒れたということに、どちらも来ないのならば最悪の事態が起こったということになる。
どちらも来たときは……無事に取り戻せたと考えていいだろう。
それに、クロムは鴇汰が介入すると言っていた。
三人が無事に中央へ現れてくれるのが一番なのだけれど、高田の部屋で頭を下げた修治の姿が胸の奥で燻ぶる。
覚悟を決めてすべてを受け入れているように思えた。
今ごろ三人はどうなっているのか。
万が一にも麻乃だけが来るようなことになれば、避難場所の泉の森も危ない。
他国の兵は結界で排除できても、泉翔人の麻乃は通ってしまう。
いくら手練れが大勢いようと、麻乃がどんな状態でいるかによっては一般の人々にも危険が及ぶ。
ただここで祈るしかできない己が不甲斐ない。
せめて尾形や加賀野たちと手をつくし、城へ集めた兵だけはすべて倒しきらなければ。
「高田、加賀野から連絡だ。北浜からもヘイトが一群上がってきたそうだ。こちらは上級兵らしい」
「そうですか……やはり今度こそは、と考えているのでしょう」
「庸儀に同じく、通路を阻んで城へ通すと言っている」
「では、我々も移動を」
北浜から城への最短距離を防ぐルートへ移り、物陰に潜んだ。
周囲には戦士たちや予備隊の姿も見える。
ヘイト軍もやはり戦闘を避けたいのか、こちらの気配を察して遠回りに城へと進んでいた。
「人数は庸儀よりは少ないようだが、車と騎馬があるな」
「ええ。そのため思うより早い侵入なのでしょう」
「いっそここでたたいてしまいたいが、戦士たちの揃わない今は通すしかないか」
「今、手をだせば庸儀も出てくるでしょう。混戦になっては、現状だと分が悪い」
「そうだな」
近くにいた戦士の一人が駆けてくるのが見える。
「どうした?」
「はい。西浜からロマジェリカ兵が一群、上がってきたそうです」
「そうか。藤川はどうなっている?」
「藤川隊長は未だ現れてはいません。北浜から引き揚げてきた隊員たちがこちらの通路の守りに対応します。我々はこれからロマジェリカ兵の対応へ移動します」
「承知した。気をつけていけ」
「はい」
尾形と二人、予備隊の数人を引き連れて移動していく後ろ姿を見送った。
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