第59話 焦燥 ~巧 2~
先へ進むほどに足止めをされる回数が増えてきた。
じれったさに苛まれながら、このあいだに梁瀬の隊員に指示を出し、徳丸と連絡を取ってもらった。
しばらくして戻ってきたメモには、徳丸が南浜に残り、後処理とサムの様子を見ているとあった。
暗示を解く術で疲労の激しいサムに、梁瀬の隊員たちが回復術を施していて、中央へは岱胡の部隊が向かったようだ。
サムがもう一度、術を放ってから中央へ向かうつもりだという。
巧も自分現状と、東区への襲撃には穂高がレイファーとジャセンベル兵を連れて対応したこと、敵兵を倒して今は中央へ向かっていることを知らせた。
そのやり取りをずっと見ていたピーターがポツリと呟いた。
それはあまりにも小さな声で、隣にいなければ聞き逃していただろう。
「なるほど……泉翔はこのやり方が通常の連絡手段か……」
今またヘイトの部隊を連れて反同盟派が浜へ戻っていくのを確認してから、周囲を見渡してピーターに車を出させた。
今、この車内には巧とピーターだけだ。
それでも念のため小声で話しかける。
「式神がどうかしたの?」
「ええ。大陸とはずいぶんと使いかたが違うと再認識していたところです」
「使いかた?」
「諜報の人たちが連絡を送ってくるときに、必ず手紙になるのがずっと不思議でした。けれど連絡を取り合うだけならそのほうが、やり取りとしては安全です」
「安全?」
「周囲に話しを盗み聞きされる心配がなくなります。話しに集中して襲われる心配もないでしょう?」
「……なるほどね」
大陸でも相手に情報を知らせたり連絡を取り合うためにも使うけれど、主な利用目的は情報収集だと言った。
目で見て、話しを盗み聞いてくるためだと。
そういえばクロムのところにいたときも、梁瀬が情報を取りたいからと言って、躍起になって使いかたを教わっていた。
見ることはできるけれど、話して聞くのが難しいとぼやいていたっけ。
「ほかにも泉翔独自に変わっていったことが多々あると考えています。ここへ来なければ死ぬまで疑問だったかもしれません」
「大げさねぇ」
思わず吹き出すと、ピーターも含み笑いを漏らした。
諜報の人々と、やり取りはしていても知り得ないことのほうが多くて疑問ばかりだったという。
この戦いに終止符が打たれ、いずれ互いの国が自由に行き来できるようになったら、諜報の仲間たちと示し合わせて訪れたいといって微かに笑った。
「そうね。そのときには私が案内役を請け負うわよ」
「それは心強いですね。楽しみにしておきますよ……もう少し先にまたヘイト軍が。泉翔とやり合っているようです」
巧は振り返って相原に指示を出すと、車を飛び降りて戦闘中の中へ割って入った。
今度の相手は暗示にかけられていた兵たちとは違って、侵攻の意思を強く持っている兵だった。
反同盟派に諭されて迷う様子も見えたけれど、マドルの口車に乗せられて、今度こそはという思いが拭いきれないようだ。
引き下がろうとせず、抵抗をみせた。
こうなるとこちらも手を出さざるを得なくなり、無駄な犠牲を出さないためにもジャセンベルに任せ、人数にものを言わせて拘束させた。
そのままジャセンベルの兵たちに、浜へ送るように指示を出す。
見送る反同盟派の兵たちは、複雑な表情だ。
ここから中央まで、あと何度これを繰り返すのだろう。
浜でヘイト軍が戻ってくるのを待っているハンスたちも、気が気ではないはずだ。
大人しく戻ってくれる雑兵たちはまだいい。
抵抗する兵たちが戻ってきたとき、やっぱりここにいる反同盟派たちを同じように、複雑な表情を浮かべるのだろう。
(本当に……マドルっていうやつはどんなやつなんだろう……)
巧自身はまだその姿を目にしていない。
岱胡とそう変わらない若さでありながら、こうも人の気持ちを揺さぶって嫌悪感を抱かせるなんて。
募る苛立ちを隠しきれないまま、また中央へ向かい、足を進めた。
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