第57話 焦燥 ~穂高 1~

 東区を出てからレイファーは妙にニヤニヤとしている。

 きっと、さっきの比佐子とのやり取りを思い出しているんだろう。

 あんなところを見られてしまって、穂高としては少しばかり複雑だ。


 途中、恐らく赤髪の女とはぐれたらしい庸儀の兵を見つけ、レイファーの部下たちが対応に向かった。

 勝手がわからないジャセンベルの兵たちを置いていくわけにもいかず、足止めをされて否応なしに苛立ちが募る。


「上田、あれはおまえの仲間じゃあないか?」


 中央へ向かうルートの真正面に、脇道から車が数台飛び出してきたのが見えた。

 近づいてくる先頭の車に、岱胡の部隊の福島がいる。


 穂高たちと同じで東区に向かっているのだろう。

 福島たちの車がスピードを落として止まった。

 穂高は車から飛び降りると、福島のところへ駆けた。


「福島!」


「上田隊長……! このジャセンベル軍は……」


「北浜にも来ただろう? 彼らは今は敵じゃあない」


「それは中村隊長に伺ってます。それより東区に火の手が上がったと……俺たちはこれから向かうことろですが、上田隊長は……」


「それも大丈夫だ。彼らのおかげで、庸儀の兵もすべて倒した」


「え……早っ!」


 驚いて率直な感想が口をついたようだ。

 穂高は思わず苦笑して答える。


「だよな。俺もそう思ったよ。消火は東区の人たちでなんとかなりそうだ。俺たちはこのまま中央へ向かう。おまえたちも一緒に来てくれ。中央へ着いてからの流れも知りたい」


「わかりました」


「上田!」


 レイファーに呼ばれ、今度はレイファーの車へ駆け戻った。

 目まぐるしく変わる状況に、半ば目眩を覚える。

 いつの間にか式神を飛ばしていたようで、誰かと話しをしている。

 西浜のジャセンベル兵と情報のやり取りでもしているんだろうか?


 そうだとしたら、今の西浜の状況がわかる。

 すれ違った赤髪の女はもう西浜に入っただろうか?


「どうしたんだ?」


「ピーターへ式神を飛ばした。中村が元蓮華の加賀野というやつのところへ行けと言っている。良く手順を確認して対応しろと」


「加賀野さんのところか……巧さんは今、どんな状況なんだろう? 中央へ向かっているんだろうか?」


「わかった。上田があんたの今の状況を知りたいそうだ」


 レイファーは巧へ返事を返してからそう聞いてくれた。

 巧がなにか言っているらしいのがわかる。


「そうか。こっちも庸儀の兵がまだ入り込んでいて対応しながらだ。とりあえず中央へ到着次第、再度ピーターへ連絡を入れよう」


 そう答えてこちらを振り返った。


「中村はヘイト軍を引き下がらせながら中央へ向かうようだ。到着には時間がかかると言っていた」


「そうか……」


「こっちもまだ敵兵に遭遇する可能性がある。放っておいてまた火を放たれても戻る時間が惜しいし面倒だ。倒しながら進むぞ」


 やっぱり思うようには進めないようだ。

 それでも、福島の部隊が合流したことで、時間をかけずに対応できるだろう。

 レイファーもきっと西浜のことが気になっているだろうはずなのに、億尾にもださない。

 本当に、今は目の前のことだけを考えて対応しているんだろう。


(こいつが大陸を納めるのなら、これからのことは本当に心配する必要はなくなるのかも……)


 そのときには、穂高にもなにかしてやれることがあるかもしれない。

 ここで泉翔が落ちるようなことになれば、大陸もなし崩しで落ちるだろう。

 出し惜しみなどはできない。すべてに全力で向き合うと、改めて自分に誓った。

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