第29話 共闘 ~穂高 3~

 クロムとサムと共に島全体に術をかけるべく、当分は西浜から動けないと梁瀬は言った。

 それならば、場所だけでも聞いてレイファーを連れ、少しでも早く向かわなければ。


 鴇汰と麻乃が対峙しているのであれば、手出しはできないだろう。

 行って穂高になにができるのかさえもわからない。

 それに……倒れた中には小坂や茂木がいるかもしれない。

 万一、麻乃のしたことであるならば、小坂になにかがあってはまずい。


「僕らの術は、これから僕のタイミングで放たれる。恐らく数時間後に、再度それに対応しなきゃならないんだ」


「それまで梁瀬さんはここから動けないってこと?」


「そう。そしてそのあと、最低六時間は泉翔にいるすべての術師が術を使えなくなる。もちろん、僕も含めて」


「それはサムも同じなのか? そんな状態になったらあんたたちは危険なんじゃあないのか?」


 レイファーの問いかけに梁瀬がうなずく。


「術が使えなくなるからと言って、なにもできないんじゃあないから危険とは言い難いけどね。特に僕とサムは軍属なんだし」


「そうなると、今から数時間後には暗示にかかった兵はいなくなるってことか……麻乃の暗示も解けるっていうこと?」


「麻乃さんにかぎっては不確定要素が高いけど、必ず解ける。だから可能なら、それまでのあいだは逃げてでも犠牲を出さないようにしたいんだ」


「わかった。鴇汰と修治さんに必ず伝える」


「それと、僕が動けないあいだ、各浜との連絡を取ってどんな小さな情報も漏らさず教えてほしい。あとから追うにも状況が把握できないと動けないから」


「それはジャセンベルで対応しよう。浜へ戻ったら誰かを掴まえてこれを見せればいい」


 レイファーは懐から出したメモになにかを書きつけて、それを梁瀬に手渡した。


「ありがとう、助かるよ。二人とも、ここから先はくれぐれも無茶をしないように……鴇汰さんたちは、砦にいる」


「わかった。なにかあればすぐに知らせるから」


 レイファーを促して砦へ急いだ。

 この場所からだと、中央へ向かうルートを少し逸れてたどり着ける。

 堤防を越えてルートを進むだろう敵兵に遭遇しないで済むのはありがたい。

 梁瀬はきっと、それを見越してこの場所で落ち合ってくれたのだろう。


 レイファーと二人、細い木々のあいだを走り抜け、斜面を登った。

 剥き出しになった岩が邪魔をして急ぐ思いとは逆に、足を緩めさせる。

 砦に着いたときにはすべてが終わっているんじゃあないかと、嫌な思いばかりが浮かんでしまう。


 レイファーはなにを考えているのか、さっきから黙ったままだ。

 はぐれてしまったのかと振り返って確認すると、ちゃんと穂高の後ろにいてホッとした。


「どうかしたのか?」


「いや……しばらく岩場が続く。思うように進めないけど、ここを抜けたらすぐに砦だ」


「そうか。こんな場所には慣れている。気にせずに先へ進め。ついていけなくなるほどヤワじゃない」


 レイファーはそう言って鼻で笑ってみせた。

 確かに、大陸では岩場が多い。

 砂埃が立って視界が悪いこともしばしばだ。

 穂高はうなずいて答えると、できるだけ足を速めた。

 岩場を上り、砦にほど近い森へ出たところで人の気配を感じ取った。


「……何人かいる」


「なんだって?」


 穂高の言葉が聞き取れなかったのか、レイファーが聞き返してきた。

 それには答えずに、足を止めて気配を手繰った。

 場合によっては近づくのは危険かもしれないからだ。


 数人いるのは確実にわかる。

 鴇汰と修治、麻乃の他に、小坂と茂木がいるはずだけれど、穂高には詳細まで掴みきれない。

 梁瀬が何人か倒れていた、と言っていた。

 五人のうち倒れていたのは誰だ?


「上田、どうした」


「いや――行こう」


 考えたところで実際に確かめてみる以外、わかりようがない。

 覚悟を決めて、砦に向かって走った。

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