第28話 共闘 ~梁瀬 1~
「上田隊長、俺は……」
「杉山には聞きたいことがあるんだ。俺たちはほとんどなんの情報もないまま戻ってきた。だから今回、泉翔がどう動くつもりでいるのか教えてほしい」
「そう言えば僕も、それに関してまったく聞いていなかった。詳細を聞いてるほどの余裕はないんだけど、最低限の流れだけは知っておきたいな」
杉山はうなずくと、テキパキと説明を始めた。
同盟三国がほぼ全軍を伴って侵攻してくると、鴇汰から情報が上がってきたこと。
物資は不足している状態らしく、恐らく泉翔で調達するつもりだろうこと。
それを踏まえ、浜は捨て、中央までのルート沿いに拠点を置き、進軍させたうえで後方から潰していくこと。
最後は皇子の計らいで城へ誘導し、残りの兵をたたく。
「ですから、ここでは先陣を通したうえで、後方から分断してたたくつもりでしたが、やつらの上陸が妙な時間だったので、拠点ごとに判断して既にある程度はたたいています」
「夜間はやつらも動かなかったんだ?」
「これまで侵入したことがないから土地勘がない。多少は慎重になるのも当然か」
「そう思います。夜明け前に後陣が動き始めたので、また幾分か通したんですが……てっきり援軍が現れたのかと思ったので、ここでできるかぎり足止めをするつもりで動きました」
苦笑いを浮かべてそう言った。
「いや。俺たちにとっては、杉山たちが出ていてくれたのは本当に助かった。こうして情報を聞けたし、伝令も回せるわけだし」
「うん、本当に。僕らに手を貸してくれた反同盟派やジャセンベルの兵士を、仲間に傷つけさせるわけにはいかないって思っていたからね」
「このあと海岸の一掃を。そのあとは杉山、悪いけどジャセンベルと協力して作戦通り、先陣を追ってくれないか」
「ですがそれは……!」
ジャセンベルも中央へ通すことになる。
それに対して危惧しているだろうことがはっきりとわかる。
「さっき上田も言ったが、いきなり信用しろというのが難しいとはわかっている。だが、我々ジャセンベルにはもう侵攻の意思はない。こちらも事情が変わった。泉翔に潰れてもらっては困る。同盟三国には必ず勝つ。そのためにここへ来た」
それまで黙っていたレイファーが、杉山に向かってはっきりと言いきった。
迷ったままの表情で梁瀬を見つめ、穂高に視線を移した。
穂高がうなずいてやると、杉山は目を閉じ、何度か深呼吸をした。
「わかりました。岡山が回している伝令に加え、ジャセンベル軍と協力する旨も各拠点へ知らせます」
「頼むよ」
「既に兵たちには、泉翔の戦士たちに従うよう話しは通してある。ロマジェリカと庸儀相手なら遅れをとることはない。存分に使ってやってほしい」
レイファーの申し出に、杉山は深く頭を下げた。
「それから、安部隊長と小坂の行方がわからなくなっています。三番の隊員の情報では、小坂が茂木を連れ出したということでした」
「修治さんと小坂がいない?」
「茂木は今回、麻酔弾を所持しています。それを連れ出したということは、三人は恐らくうちの隊長と一緒のはずです」
「なんだって?」
遅かった、そう思った直後、梁瀬が割って入った。
「それは多分大丈夫。すぐにどうにかなることはない」
「ですが、小坂と茂木のことは心配です。一緒にいたら危険かもしれない」
「杉山、二人のことは僕らが対応する。キミは取り急ぎこのままジャセンベルと合流して。修治さんの隊員たちと、先の対応をお願い」
杉山は返事をすると、すぐに堤防を越え、まだ混乱している海岸へと走っていった。
それを見届けると、梁瀬が穂高を振り返った。
「さっき、鴇汰さんをおろしてきた。時間がなくてはっきりした様子はわからなかったんだけど」
「場所は? 俺たちもすぐに行ってみなければ」
「聞いて。多分、修治さんが押されている。それから周りに何人か倒れているのが見えた」
梁瀬の言葉に血の気が引いた。全身に鳥肌が立ちそうなほどの寒気がする。
「行ってみて、どんな状況になっているかはまったくわからない」
「じゃあ、なおさら急がなきゃいけないじゃあないか! 場所は……」
「落ち着いて! 僕はこれから、マドルにかけられた暗示を解くために動かなければならない」
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