第35話 襲来 ~岱胡 1~
「な……なんて数だよ……」
堤防から少し離れた丘の上で、岱胡は海岸を見降ろして呆然とした。
監視隊から敵艦の姿が見えたと連絡が入ってから、尾形の指示で元蓮華たちと、巧、徳丸の隊員たちが堤防へ向かったのを見届けた。
そのあとすぐに岱胡の隊員と予備隊、訓練生、それから梁瀬の隊員たち、後方から援護する班を伴って丘を登った。
そう広くはない入り江から本来見えるはずの水平線が、まったく確認できないほど敵艦で埋め尽くされている。
――思わず息を飲んだ。
確かに、ほぼ全軍を伴ってくると言う話しは聞いていた。
ただ、どうもイメージが湧かなかった。
けれど数え切れないほどの敵艦を目の当たりにすると、さすがに薄ら寒くなる。
見たことがないほど大きな戦艦もある。
これまでは、一万を超えると多いと感じていたけれど、単純に見積もって少なめに計算しても、十倍以上の敵兵が上陸してくるはずだ。
対してうちの兵数は分散させたとは言え、これまでとほぼ同数……。
(多いどころの話しじゃないじゃんか……どう考えても敵わない)
まともに考えると、それが正しい。
それなのに、どういうわけか今、岱胡の中では変な自信が湧いてきている。
(なんだろう……? 全弾……一弾も外すことはない。多分、みんなもそうだ。確実に敵兵のみを倒せる、そんな気がする)
つと横を見ると、明らかに緊張している訓練生たちの顔が並んでいた。
予備隊も、その数に気圧されている。もちろん岱胡の隊員たちも。
「なんだよ~、みんな緊張し過ぎだって。スコープ、しっかりつけて落ち着いて照準を合わせれば、必ず敵兵を倒せる。まずは落ち着いていこう? な?」
「そうだぞ。第一ここは海岸から離れた丘の上だ、すぐに敵兵がやって来られる場所でもない。前線に出ているやつらに比べたら欠伸が出るほど安全な場所なんだからな」
古株の森本が岱胡のあとを継いで、緊張を解すように軽口をたたいた。
思わず森本の肩を肘で突いて、ククッと笑った。
「なに言ってんの。欠伸は緊張感なさ過ぎるって」
「えっ? そうですか? 俺から見れば、あんたなんて真っ先に居眠りさえしそうですけど?」
岱胡と同じ歳の飯川がそう言って笑った。
岱胡の部隊は平均して年齢が低いものが多い。
銃を扱う戦士が年配には少なく自然とそうなった。
そのせいもあって、予備隊も訓練生たちも、他の部隊と比べるとやっぱり平均年齢が低い。
こういうときになると様々な経験が浅いせいで、どうしても不安な気持ちが先行してくる。
けれど逆に、こんな場合だからこそおどけたことを言ってみると、徳丸や巧、更にそのうえを行って尾形たちには通用しなく、たしなめられてしまうことでも、意外と通用したりもする。
現に今の岱胡と森本のやり取りが、この場にいる全員の緊張を和らげた。
「普段通り。俺たちは、普段通りで行こうよ。いつもと同じように、前線に出ているみんなを守るため、一人でも多く敵兵に当てる。それだけのことだよ」
岱胡に向けられた視線が温かみを帯びてうなずいた。
手にしたライフルを構えて海岸に照準を合わせてみる。
堤防に立ち並ぶ徳丸の隊員たちの姿が見えた。
敵艦はまだ沖に揺れている。上陸まではもう少し時間がかかるだろう。
「各自、今のうちに海岸との距離をしっかり頭にたたき込んで。それから銃弾、十分な数を手もとに置くように」
「きっとすぐに不足する。ゼロになる前に拠点へ連絡を入れて運搬を頼むこと。一秒たりとも無駄にせず、一人でも多く敵兵を倒す」
「前線のメンツが退避したのを見たら、あとはもう脇目を振らずにひたすら引き金を引けばいい。あとから来るのは全部敵兵だからね、狙わなくても撃てば勝手に当たるさ」
そう言って撃つ真似をしてみせると、またクスクスと笑いが漏れ聞こえた。
笑われることには慣れているし、変に硬くなるよりは全然マシだ。
それに今、自分が言ったことに間違いはない。
あれだけの敵艦から溢れ出てくるんだ。
見ずに撃っても絶対に敵兵に当たるのは考えるまでもなくわかる。
向こうがどんなに注意を払ったところで、狭い海岸からルートに入るとなると、避けようがないのが当たり前だ。
「釣りでいうところの入れ食いってやつだよね。ここで俺たちが一人でも多く減らせば、先の拠点に待機してるやつらが楽になるんだ。頑張ろうな」
構えたライフルを下ろし、全員を見回してそう言った。
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