襲来
第31話 襲来 ~修治 1~
時間が零時を回ったころ、演習場のあちこちに設けた拠点に、それぞれの担当が配備についたと連絡が入った。
梁瀬の隊員たちが、すべての持ち場と常に情報のやり取りができるように手筈を整えてくれている。
気づけばもう夜明け前で、今、西詰所に残っているのは修治の隊の古株が八人と新人が十七人の計二十五人、麻乃の隊から小坂を始め、新旧合わせて同じく二十五人、予備隊と訓練生を合わせて五十人、全部で百人だ。
敵兵が上陸をしたと同時に堤防からいったん退き、すぐそばに設けた拠点に待機している隊員たちと、ルートに入ってきたやつらをたたく。
すべてを一度で倒しきれるとは思っていない。
けれど、どれほどの人数で来ようが絶対に負けはしないし、規模が大きければ大きいほど逆に自分の身を守る盾にもなってくれる。
西浜からはどんなことがあろうとも、一人も中央へ通すつもりはない。
柳堀や居住区へもだ。
おクマや松恵はそれなりの手練れがいるから安心して通せと言うが、そんなわけにはいかない。
いくら腕が立とうが、塚本や市原のように実戦を経験しているものたちとは、やはり違う。
なにかが起こってから後悔しても遅い。
多香子たちが西区を出てすぐに、中央の加賀野から妙な痣を持ち、ここ最近の行動がおかしいものが二人見つかったとの連絡が入った。
まだ若い巫女のハヅキと上層部の一人だと言う。
ハヅキはシタラとカサネの世話係で常にそのそばにいることが多く、カサネが一番巫女になってからはそのそばに寄り添い、何度も麻乃の不安定さと干渉の疑いを進言したそうだ。
上層部のほうでも印を持ったものが、やはり麻乃の立場を危うくし、修治が戻ったときにも防衛の準備を遅らせるように仕向け、更には最もらしいことを言って島の結界を外させている。
二人とも、普段の生活にはなんら変わりはないように見えたらしいが思い返すと近ごろは、一人でいることが増えたと誰もが言ったそうだ。
今はどちらも神殿の奥にある部屋へ隔離され、巫女の護りを受けているらしい。
おかしな術はどうやら人を介して広がると言い、カサネや他の上層への干渉も危ぶまれた。
取り急ぎ調べた結果では、他のものに痣は見つからなかったらしい。
術に関して詳しくない修治には、人を介して広がるという意味が良くわからなかった。
こんなときに梁瀬がいてくれたら、あるいは理解も可能だったかもしれないが……。
中央のことは加賀野や他の元蓮華たちと高田に任せることにして、修治は西浜の防衛だけに力を注ぐことにした。
庸儀の兵と麻乃が既に上陸をしていたことは加賀野にも知らせてある。
麻乃のことは臥せて北浜と南浜へ情報を流してくれるように頼んだ。
もしも鴇汰が知ったら、北浜でのすべてを放り出してここへ飛んでくるだろう。
この差し迫った状況でそんな真似をさせるわけには行かない。
あれこれ考えているだけで気が遠くなりそうだった。
「……大丈夫ですか?」
自分では気づかなかったけれど、不安な思いが顔に出ていたようで、小坂が横からそっと声をかけてきた。
顔を上げると、隊員たちも不安な面持ちで修治を見つめている。
「ああ。少しばかり考えごとをしていただけだ。なんの心配も要らないさ」
そう答えてフッと笑うと、誰もが疑わしげに視線を返してきた。
なにを思っているのかは聞くまでもなくわかる。
これから向き合う敵兵の中に麻乃の姿がある。
小坂たち麻乃の隊はもちろんのこと、修治の隊員たちもいつでもともに行動してきた相手だ。
その腕前のほどを目の当たりにしているだけに対峙したときの不安は大きいに違いない。
特に修治はその麻乃を相手にしようとしている……。
最後にどんな判断を下すかも修治次第だ。
思い詰めていて当たり前だと思っているんだろう。
「それにしても、やつら上陸してるほど近くにいるはずなのに、監視隊からなんの連絡もないのはどうしてなんでしょう?」
「そうだな。まさか麻乃が一人で戻ったとも考えられない。それなりに大所帯のはずだ。近海にいればわからないとは思えないが……」
「接近しているのに姿が見えないなんて……薄気味が悪いですね」
川崎が呟いたのを聞いて、大陸で突然囲まれたことを思い出した。
もしかすると、なんらかの術で居所を不確かにできるのかもしれない。
けれど、今度はその規模が違う。
人が数十人だったときと、今は戦艦が恐らく数十隻……。
単に術云々でどうにかなるものなのだろうか?
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