第30話 乱調 ~マドル 12~
「麻乃が戻った?」
「はい。あのあとすぐに……やはり泉翔本島へ戻っていたようですが変わった様子は特にありません」
側近からの連絡で、なにも起こらなかったことにホッと溜息がもれた。
本島に結界が張り直されていたことや、繋ぎを付けたものの様子など、妙なほうへと流れている気がしているときに、麻乃にまでなにか起こってはたまらない。
「お戻りになったときに、見覚えのない武器を手にしていました。それを取りに戻ったのではないかと思うのですが」
確かに麻乃は武器が一刀しかないことを不満に感じていたようだった。
泉翔の自宅には予備の武器が保管されてあったのだろう。
(それを手に戻ったのならば、相応のやる気を持っているか……)
「庸儀の方々は、やはりどうあってもお答えをいただけなかったので、いささか手荒な手段を取らせていただきました」
「構わないでしょう。そちらにいたところで行動をともにするわけでもないでしょうし、作戦の邪魔をされても今は面倒なだけですから」
「彼らはジェさまの命で、あのかたのあとを追って来たようです。人数が中途半端だったのは、あのかたが上陸したのを見て数人が追いかけたからでした」
「そうですか……それで、追って行ったものは戻っているのですか?」
「いえ。あのかたが戻られて数時間経ちますが、一向に……泉翔本島に近づける範囲内で探りを入れましたが、彼らの仲間が見つからないのはもちろん、泉翔のほうも特に変わりはないようです」
「麻乃が無事であれば結構です。あと半日もすれば、こちらも泉翔近海へたどり着きます、小島へは寄らずにそのまま上陸します、そのときには全艦遅れることなく動けるよう、手配をしておいてください」
「わかりました」
まだマドルにとって良い方向へと流れているようだ。
不確かな部分を残していても、そう大きな問題ではないだろう。
なぜか確信を持ってそう言える。
(それにしても……)
ジェの執拗さと浅はかさが本当に鼻につく。
高々三十人程度とは言え、簡単に兵力を削ぐなどと。
その人数分だけ、自分の盾が減ると言うのに。
これまでのジェの立ち居振る舞いや戦争中の動き、麻乃と対峙したときの様子から見ても、とても腕が立つとは思えない。
事によっては浜を抜けることさえできないのではないだろうか?
(それならばそれで、後々こちらの手間が省けるか)
ジェの部屋を訪れ、主要のものを呼び出させると、ジェの部隊を先陣として出してからの段取りを改めて確認しあい、他の船に急ぎ、連絡を取った。
これでもう、あとは上陸を待つだけだ。
またデッキに戻り、うねる海を眺めた。
これまでも、何度かこうして泉翔へ向かうときに広がる海を見つめた。
そのときの思いとは明らかに違う。
しばらくそうしていると、大陸に残してきた側近から式神が届いた。
どうやらサムの率いる反同盟派が動きだしたようだ。
ジャセンベルのほうも、いつの間にか国境沿いに置かれた部隊が数を増していると言う。
少し早い気もするけれど、それも今は早く片づいてしまえばいいとしか思えない。
側近にはほど良い場所に身を隠し、逐一報告ができる環境を作るよう指示をした。
逸る気持ちを抑え、曇天の空を仰いでから部屋へと戻った。
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