第29話 乱調 ~マドル 11~

「その可能性が高いと思われます。それから……」


「まだなにか問題があるのですか?」


「ヘイトが合流してくる少しばかり前に気づいたのですが、見知らぬ船が一隻混じっていました。気になって調べてみたのですが、庸儀の兵が数人いるだけのようです。このものたちは、我々の部隊に組み入れるのでしょうか?」


「庸儀の……それはどんな船でした?」


「はい、黒塗りの三千は収容できそうな軍艦です。ですが中には二十名ほどしかいないようです」


 側近を待たせ、すぐにコウたちへ式神を送り、消えた船体の特徴を聞いた。


「あぁ。あれは修繕を済ませたばかりで、確か船体を黒く塗り変えた」


 それだけ聞けば十分だ。

 船が消えたときに、コウがジェの側近が幾分か減ったと言ったのを思い出した。

 船は流されたのではなく、彼らが乗ってロマジェリカ軍のあとを追ったのか。

 恐らく、また麻乃の邪魔をするためだろう。


 先だって十人を軽く退けたことを考えれば、そう心配する必要もないだろうが、事によっては、マドルが到着する前に泉翔に見つかってしまうかもしれない。


「すぐにその船に向かい、中のものに目的を伺ってください。それからその人数の把握も正確にお願いします。麻乃のほうは、念のため泉翔の西浜に式神を飛ばして探りを入れるように。一時間後にそちらに置いた私の式神で連絡を入れます」


「わかりました」


 飛び去る式神を見送り、再度コウに連絡を入れた。


「ジェの側近が幾分か減ったと仰っていましたが、人数や詳細はわかりますか?」


「さぁな……俺たちはもう、そこまで把握できる立場じゃない。ただ、先日あの人を追って行った連中よりは多いだろうと思う。まぁ、国境に送り出したなら当然だろうがな」


「そうですか……」


「なにか問題があったのか?」


「船が見つかりました。どうやら減った兵たちはロマジェリカのあとを追ったようです」


「……またあの人のもとに送り込んだというわけか。ジェさまも懲りないお人だ」


 ジェに対しての呆れがハッキリと伝わってくる。

 かすかな息遣いと少しの間を置いて、コウが続けた。


「チェの話しでは今度のやつらは大した腕前ではないようだ。前のやつらを軽く退けたなら、そう心配は要らないだろう」


「もちろん、その心配はしていません。急な呼び掛けに答えていただき、ありがとうございました」


 そう答えて式神を引き上げた。

 コウのいうことはわかる。

 ただ、あの辺りは泉翔の海域だ。


 大きな問題が起きてしまっては、泉翔にこちらの居所を知らせる事態になってしまう。

 そのうえ、本当に麻乃が泉翔本島に上陸しているとしたら。

 万が一にも泉翔に捕らえられてしまったら……。


 うまく運んだと思うと、足止めをされるようなことが起こる。

 今度はこんなにも差し迫った状態で。

 大体、麻乃も麻乃だ。

 どんな都合があったのか知らないが、そこまで無謀な行動に出るとは……。


 ジェにも麻乃にも同じだけ苛立ちが募る。

 こうまで引っ掻き回されるのは面白くないし、失敗は絶対にあってはならない。

 なぜ大人しくしていてくれないのかと、怒りに震える手を握り締め、側近に呼びかけた。


「庸儀の船ですが乗っている人数は二十六人でした。目的を伺ったのですが、ただニヤニヤと妙な笑みを浮かべるだけで、答えがいただけません」


「二十六人……中途半端な数ですね……麻乃はどうなりましたか? やはり泉翔に?」


「それが……泉翔に式神が送れなくなっています」


「そんな馬鹿な――あの島には今は結界が張られていないはず……」


「はい。確かに昨日までは浜の様子を見ることもできたのですが、先ほど送ったときにはもう……」


 ほんの少し目を離した隙になにがあったのか。

 揺さぶりをかけて確かに結界の範囲を狭めたと言うのに。


「わかりました。そちらのほうは私が確認してみることにします。取り急ぎ庸儀の方々に暗示をかけてでも、なんの目的があってのことなのか聞き出してください。また一時間後にこちらから連絡を入れます」


 そう指示を出し、マドルは部屋へと戻った。

 念のため、横になってから泉翔で新たに手を加えたものに繋ぎを取った。


(――暗闇?)


 意識を移した瞬間、暗闇に包まれた。

 拘束されている様子はない。

 今、泉翔は恐らく夜だ。

 そのせいもあっての暗闇だろうか?


 それにしても足もとさえ見えないような中で、このものは、なにをしていたのか。

 仕方なく、もう一方へと意識を飛ばしてみると、そちらのほうはまったく繋ぎが取れない。


(一体、なにが……)


上陸のことを考えると無理はできない。

深追いをするのを諦め、横になったまま今の状況をしっかりと記憶に残した。

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