第12話 再会 ~多香子 2~
二人のあいだに割って入れるとは思ってもいなかったし、そんな真似をする気ももちろんなかった。
いつのころからか二人の関係が変わり、多香子のそばに修治がいることが多くなった。
麻乃と修治のあいだにある感情が恋人同士のそれではないと知ってから、自分の中で抑えていた修治への感情が加速した。
(麻乃ちゃんはどう思っていたんだろう?)
常にそれが気がかりだった。
表面上は祝福してくれているように見えたけれど、ずっと一人のままでいる麻乃を見ると、不安と罪悪感が過ぎることもしばしばだ。
子どもができたと知られてしまったとき、思いきって聞いてみると、本当に喜んでくれているのがわかったし、麻乃に思い人がいるのも知った。
(戻ったらさ、もっとちゃんと話しを聞いてもらってもいいかな? 相談に乗ってくれると嬉しいんだけど……)
真っ赤になって照れた顔を見せた麻乃はそう言った。
そう言われて初めて、そんな話しをしたことがこれまでなかったと気づいた。
いつからそんな思いを抱いていたのかさえ、まったく知らなかった。
相手は恐らく鴇汰だろう。
とすれば、自分が相談に乗るまでもなくうまくいくはずだ。
それでも頼ってもらえるのを嬉しいと思うし、これからもっと沢山の話しを聞いてあげたいとも思う。
(早く無事に戻ってくるといいんだけれど……)
アルバムを閉じてそれもかばんに詰め、書棚の中から古くてもう手に入れることが難しそうな本を選んで、別な袋に丁寧にしまう。
次に麻乃の部屋へ行き、ここでも数冊の本と正装用の衣類、最近よく着込んでいる青い上着を出して袋詰めをした。
「他に大事にしているようなものはあったかしら……?」
部屋を見渡してみてもなにを持ち出したらいいのか、やっぱりピンと来ない。
ふと麻乃の刀が視界に入った。
一刀は、麻乃がいつも持っていた刀で、もう一刀は修治の持っているものと対になっている麻乃の母親の形見だ。
「そう言えばこれ……」
手を伸ばしかけて、周辺に人の気配を感じた。
ハッとして時計を見ると、もう八時近くになっている。
灯りを点けていたせいで、外がすっかり暗くなっていると、まったく気づかないでいた。
もしかすると多香子を探している誰かが来たのだろうか?
早いうちに避難することを勧められていたのを断ってまで、こうしてここに来たのに、これ以上遅くなるわけにはいかない。
あわてて荷物を抱え、灯りを消して外に出た。
思いのほか荷物が重くて、玄関を出て数メートルの辺りで荷物を置いて周囲を確かめた。
「誰? 塚本さん? 市原さん?」
暗がりの中に人影を見つけ、声をかける。
「ごめんなさい。早く戻るつもりだったんだけど……荷物も増えちゃって。手を借りられるかしら?」
数歩前に出たところで、なにかおかしいと感じた。
けれどそう感じたときはもう遅く、暗がりにいた人影がサッと動き、抵抗する間もなく腕を取られた。
一見、泉翔人と変わらない風貌なのに、着ている服が違う。
緑色の軍服だ――。
すぐに庸儀の兵士だとわった。
一人じゃない。
二人……いや、全部で四人もいる。
驚きのあまり声も出なかった。
「人けがなくて面白くなかったところに、タイミング良く現れてくれたものだな」
「あぁ、おまけに女だ」
「他に人の気配はないな?」
多香子は武器になるようなものを持っていない。
仮に持っていたとしても四人の男を相手に多香子が立ち回れる自信もない。
それになにより、お腹の子になにかあったらと思うと怖くてたまらない。
取られた腕を振り解こうとしても力負けしてどうにもならず、恐怖で男たちの言葉さえ聞き取れなくなった。
強い力で頬をたたかれ、軽い目眩を感じたところを突き飛ばされて地面に倒れ伏した。
暗闇の中で枯れ草と土の臭いを感じる。
「痛い思いをしたくなかったら大人しくしていろ!」
人を呼ぼうにも、この辺りはもう避難済みで誰もいない。
今、立ち上がって逃げようとしてもすぐに捕まってしまうだろう。
どうすることもできずに目を閉じた。
中の一人に両手を掴まれ、もう駄目だと諦めた瞬間、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「――そんなところでなにをしている?」
覆い被さるように腰を下ろした男の間から、声のするほうへ視線を向けた。
暗くて姿ははっきり見えないけれど、声の主がこちらへ近づいてくるのがわかった。
男たちはその人影を振り返り、嘲笑うかのような表情を浮かべた。
「なんだってあんたたちがここにいるんだ?」
「おまえに言われる筋合いはないな。こっちはいいところなんだ。邪魔をするな」
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