第129話 合流 ~鴇汰 2~
「おととい、ヘイトとロマジェリカに出ていた船が戻った。どっちも戻ってきたのは船員だけだ」
「庸儀の船はまだ戻っていません、もしかすると巧さんも穂高さんも、乗っていないかも……」
嫌な予感はしていた。なんとなく、誰も戻っていないんじゃないかと。
薄々は感じていたけれど、改めて聞くと思った以上につらい。
「それと、ロマジェリカの船には式神がきて、先に戻れって指示を出してきたそうッスよ」
岱胡が難しい顔をしたままで鴇汰を見た。
「俺たちの船に? だって俺も麻乃も術は……」
鴇汰と麻乃が戻らないことを知っていたのは、ロマジェリカのマドルだけだ。
麻乃は手に入れた。
鴇汰のことは死んだと思っただろう。だとすれば――。
「マドルって野郎に違いない。あいつがきっと、式神を飛ばしたんだ」
どう考えても、答えはそこにしか行きつかない。
ふと、修治の視線が観察しているかのように、鴇汰に向いていることに気づいた。
「庸儀の船についてはまだなんとも言えない。もしかするとトクさんも梁瀬も、そっちに乗ってる可能性だってある……」
修治がチラリと時計を見ている。
さっきレイファーと一緒にいた男が、二十分後にまた、と言っていた。
「ロマジェリカの船にきた式神……恐らくおまえのいうとおり、そいつの仕業だろう。その件も、あとでゆっくり考えなきゃならないな。麻乃の件もだ。あの二人……おまえはあいつに、なんでこんなところにと言ったが、やつらは麻乃の情報を持ってきたんだよ」
「なんであいつらが……」
「ヘイトのあの男、どうやら反同盟派のようだ。おまえが言った反同盟派のロマジェリカ襲撃……そのときに麻乃を見たと言ってきた。なんだってロマジェリカに加担してるんだ、とな」
「あんたまさか、あんな野郎のいうことを信用するのか?」
思わず大声を上げて立ちあがると、砂浜を振り返った。
レイファーとヘイトの男はもう船から戻ってきている。
これまで何度となくやり合ってきた相手だ。
たまたま、どちらも命を落とさなかっただけで、大怪我を負わせたこともあれば、逆に自分が死にそうな目に遭わされたこともある。
そんなやつが親切ごかしてなにを言おうが、信用できないのはもちろんのこと、聞いてやる筋合いもない。
「手放しで信用するわけじゃない。だが今は少しでも情報がいる。麻乃の話し以外にも、うちにとって有益な情報が引き出せたらありがたいんだよ」
「俺たちも戻ってきて驚いたんスけど、うちの国、今、なんかおかしいんスよ」
なにがおかしいというのか聞くと、それは帰りに話すと言う。
「今は時間が惜しいんだ。俺たちはこのままやつらの話しを聞く。おまえは……落ち着かないようならボートで待ってろ」
修治と岱胡が立ちあがった。
岩場をおりてレイファーたちのところへ向かって歩き出した二人を、早足で追いかける。
「黙って待ってられっかよ! あんたが必要だって判断したなら俺も乗る。それが穂高たちとの約束だからな」
修治の横に並んで歩き、やけに堂々としてこちらを見ているレイファーを睨むと、そうつぶやいた。
今日は戦争じゃない。
泉翔の状況がわからない今、修治がいうように有益な情報とやらがあるのなら、鴇汰自身の耳で聞いておきたい。
歩むごとに深く呼吸をして、どうにか気持ちを落ち着かせた。
「――岱胡? どうした?」
突然立ち止まって振り向いた修治の言葉に、鴇汰も振り返った。
後ろを歩いていた岱胡がうつむいたまま立ち尽くしている。
「さっきは……聞き流しちゃいましたけど……鴇汰さんの言ったことを考えると、それってやっぱり、あれッスよね? みんな、その……」
「馬鹿! その先は言うな!」
思わず叫んだ言葉が修治と被った。
目が合うと、バツの悪そうな顔をみせて、修治は歩き出す。
なにをしても噛み合わない相手なのに、こんなときに、こんなことで重なる部分があろうとは、夢にも思わなかった。
鴇汰と同じで驚いた様子の岱胡をうながし、修治のあとから歩き出した。
さっき、観察するような目で見ていたのは、鴇汰が話しの邪魔になるかどうかを確かめていたんじゃないだろうか?
レイファーから情報を引き出そうというときに興奮して突っかかっていくようなら邪魔になる。
冷静さを取り戻せないようなら、ボートに繋いででも置いていく。
そう思っていたに違いない。
(俺ならきっと、そう考えた)
今、繋がれていないところを見ると、一緒にいても問題ないと判断されたんだろう。
そう思うと、感情に任せて下手な真似をするのだけは、絶対に避けたいと思った。
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