第128話 合流 ~鴇汰 1~

 修治にたたかれた頬が熱い。

 押さえつけられた岱胡と、堂々と修治と向き合うレイファーの姿を見た途端、言葉には言いあらわせない沸き立つ衝動に駆り立てられた。


『どうして鬼灯を持っている? 麻乃はどうしたんだ?』


 そう問われて鴇汰は我に返った。

 今、修治と岱胡に連れられて岩場に腰をおろし、やっと少しだけ冷静になれた。


「鴇汰、だいたの見当はつく。なにがあったか言え」


 修治が言う。

 真っすぐに鴇汰に向けられた目は、なにかを覚悟しているようにも見えて、巧たちが言ったことを思い出す。


「俺が……しくじったんだ。目の前にいたのに、なにもできなかった……」


 逃げたくも、言い訳をしたくもなくて、修治から目を逸らさずに話しを始めた。

 大陸に着いてから、どうも追われているようだったこと、奉納を終えたあと、庸儀の兵に襲われたこと……。

 その中にリュがいて、逃げきれずに麻乃が覚醒しかけたことを話し始めたときには、修治のほうが視線を逸らし、うつむいてしまった。


「……あいつ、自分がヤバい状態だってわかってた。それで本当に逃げることだけに徹しようとしたんだ。逃げ切れる寸前までこぎつけたのに、右肩を弓で撃たれて……多分なんらかの薬が塗られていたんだと思う。あいつはそのまま気を失って……」


 あのときのことは、何度思い出しても胸が痛む。

 修治は目を閉じたまま深いため息をついた。

 そこにロマジェリカの軍師があらわれたこと、またがっていた馬に麻乃を引きあげて、鴇汰はリュもろとも崖へ落とされたことまでを、一気に話した。


「ロマジェリカの軍師って、確かマドルとかいう名前の若いやつッスよね?」

  

 岱胡の問いかけにうなずく。


「あいつは知ってたんだ。庸儀の女が偽物で、麻乃が本物だってことを。あの野郎は『自分に必要なものを迎えにきた』って言いやがった」


「必要なもの……? 確かにそう言ったのか?」


「ああ、このタイミングで目覚めさせるわけにはいかない。自分がほしいのは本物の力だって――」


「本物の力……」


 いつもの考え込む仕草をしていた修治は、不意に顔をあげて鴇汰を見た。


「それよりおまえ、そんな状況で崖から落とされて、良く無事だったな?」


 岱胡もその言葉に大きくうなずいている。


「俺、無事とは言えない状態だったらしい。大陸で暮らしてる叔父に助けられたんだよ」


「あっ! 例の式神の!」


「ああ。意識が戻ったときは、もう五日も経っていた。身動きは取れねーし……」


 それからクロムやほかの人たちの回復術で傷が全部癒えたことを話した。

 術でそこまで傷が癒えることに、修治も鴇汰と同じ疑問を持ったようだった。

 それに対して、自分がクロムから聞かされたことを話した。


「……そうか。それにしても本当に……良く戻ってきてくれたな」


 以前、麻乃になにかあったら鴇汰を許さないと、修治は言った。それを考えると、こんな状況になってしまったことに対して、絶対に憤りを感じていると思う。


 けれど、修治は今、本心からそう言ったようだ。

 その言葉をありがたいと思う反面、責められたほうが楽だとも思った。


「俺、本当は動けるようになったら、隙を見て麻乃を助けにいくつもりだった」


「一人でですか!」


「だってほかに誰もいねーじゃんか。叔父貴が得た情報じゃ、麻乃のやつは覚醒しちまったみたいだし……」


「覚醒したって? どこでそんな情報を……」


 大陸で反同盟派のロマジェリカ襲撃があり、赤髪の女が二人あらわれたという話しをした。

 本当だったのか……修治はそうつぶやいて、両手で頭を抱えた。

 それを見た岱胡も神妙な面持ちだ。


「一人は庸儀のあの女だ。もう一人は……あいつ、なにをされたのかわかんねーけど覚醒しちまったんだよ」


「しかもロマジェリカに加担してるか……となると事態は最悪の方向へ流れてるな」


 頭を抱えていた手を、そのまま顔に滑らせ、何度か顔をこすったあと、修治は空を仰いだ。


「だから俺は例え死んだとしても、麻乃を取り戻そうと思ったんだ。けど……」


「……けど? なんッスか?」


 言葉を継げないでいると、岱胡が待っていられないというように問いかけてきた。

 修治に視線を移すと、岱胡と同じで早く言え、と言わんばかりの目をしている。


「俺が眠っているとき……穂高たちが来て言ったんだ。麻乃を本気で助けたいなら、泉翔に戻れって。戻ってあんたに手を貸してやれって。あいつらみんな、そう言ったんだよ……なぁ、もうみんな戻ってるのか?」


 今度は逆にそう問いかけた。

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