合流
第127話 合流 ~修治 1~
レイファーは修治を真っすぐに見据えてハッキリと言った。
「――きさまたちにもあるだろう?」
「ある、ってなにがだ?」
「華をかたどった痣だ」
(痣……?)
蓮華の印のことだろうか?
けれど、そんなはずがない。
「それは――」
問いかけようとしたとき、辺りに殺気を感じた。
レイファーもそれに気づいたのか、視線を周囲に巡らせている。
(殺気……? どこだ? 空か……!)
岱胡をさがらせて修治も数歩退き、空を見あげたその瞬間、レイファーたちと同じフードつきのマントを被ったものが、どこからか目の前に飛びおりてきた。
着地の勢いでその足もとの砂が舞いあがり、片膝をついた格好のまま、屈んでジッと動かない。
(まずい! ほかにも仲間がいたのか!)
グッと月影の柄を握り締める。
そいつの肩にかかっていた荷物がドサリと落ちたのと同時に、マントを翻してレイファーに向かって飛びかかっていった。
咄嗟のことで、ヘイトの男も金縛りをかけ損ねたようだ。
手にした棒状の武器を振りおろしたのを、レイファーが剣を抜いて防ぐと、武器のぶつかり合う鈍い金属音が響いた。
押し込んだ武器をレイファーに弾き返されたそいつは、包んでいた革袋を手早く外して構え直している。
何度か打ち合い、横から斬り流した攻撃がレイファーの肩近くをかすめて衣服を赤く染めた。さらにとどめを刺そうとするように上から振りおろされた剣を受け、レイファーの顔色が変わった。
「なんだって、てめぇがここにいやがる! おまえら……こんなトコでこの野郎となにしてやがんだ!」
「――その声! 鴇汰か!」
「と……鴇汰さん!」
岱胡と同時に叫び、互いの顔を見た。
「……やっぱり長田か。きさま無事だったのか」
「だったらどうした!」
切り結んだままでレイファーは不敵な笑みを浮かべている。
唖然として二人を見つめていたヘイトの男が我に返り、鴇汰に杖を向けた。
修治にしたように鴇汰に金縛りをかけたようだった。
それなのに、鴇汰の動きは一向に止まらない。
「――効かない? そんな馬鹿な!」
レイファーが力強く鴇汰の武器を圧し返し、二人の体がバランスを崩してふらつきながら離れたその隙をぬって、修治は二人のあいだに割って入った。
月影を抜き、突きかかってきたレイファーの剣を受け流し、鞘で鴇汰の武器を受け止める。
間近で見て、鴇汰が手にしているのが鬼灯だと気づいた。
「落ち着け、鴇汰! あんたも、剣を納めろ!」
レイファーはすぐに退き、数歩さがって剣を納めた。ヘイトの男がそのそばに寄り、斬られた肩に回復術を施し始めている。
納まらないのは鴇汰で、岱胡が駆け寄ってきて後ろから羽交い絞めにしても、まだレイファーに向かっていこうとしている。
「邪魔すんな! おまえらまさか、あの野郎となにか企んでやがるのか!」
興奮したまま叫んだ鴇汰の頬を、修治は思い切り引っぱたいた。
「馬鹿なことを言うな! それよりおまえ、その格好はなんだ? どうして鬼灯を持っている? 麻乃はどうしたんだ?」
矢継ぎ早に問いかけると鴇汰の動きがピタリと止まり、その場に沈黙が流れた。
鴇汰はゴーグルとフードを外すとうなだれたまま視線を足もとに落としている。
「どうやら、そちらには込み入った話しがありそうですね。こちらのかたも軽いとはいえ怪我を負っている。少しばかり互いに頭を冷やしませんか?」
ヘイトの男がそう言った。真意はどうあれ、その申し出はありがたい。
鴇汰が戻った今、聞きたいことは山ほどある。
やつらの持ってきた話しも、すぐにでも聞きたかったけれど、今はこちらのほうが重要だと判断した。
「そうしてもらえると助かる。こっちも時間をかけないようにするつもりだ」
「では二十分後にもう一度、それでどうでしょう?」
「――わかった」
レイファーたちが船へ戻っていったのを確認してから、岱胡とともに鴇汰を引っ張って、ボートを繋いである岩場のそばまで移動した。
問いかけたときの鴇汰の反応で大体の答えはわかっていた。
それでも、なにがあったのかだけは聞いておかないとならない。
それが今後の対応に繋がるかもしれないし、それ次第では修治自身も覚悟を決めなければならないからだ。
「鴇汰、だいたいの見当はつく。なにがあったか言え」
うつむままでいた鴇汰は、吹っ切るように頭を振ってから顔をあげた。
琥珀色の瞳を真っすぐにこちらに向けると
「俺が……しくじったんだ。目の前にいたのに、なにもできなかった……」
そう言って話しを始めた。
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