第130話 合流 ~レイファー 1~
「待たせてすまない」
安部は長田と長谷川を伴って戻ってくると、まずそう言った。
「いや……ここから邪魔が入らずに話しができれば、なんの問題もない」
チラリと長田に視線を向けると、邪魔という言葉に反応して殺気のこもった目で見返してくる。
いつでも長田一人だけに手古摺っているわけじゃない。
率いる兵たちも少数でありながら、腕の立つものばかりで厄介だ。
高々百人……多くても三百いるかいないかのやつらを相手に、なぜ、何千もの兵を率いて敵わないのか。
大陸でも三国を相手にしている以上、この国にばかり兵を裂くわけに行かない。
それでも何度かは、物資に糸目をつけず最大限に用意して数万を率いた。
けれど最後には必ず、長田がレイファーの前に立ちはだかり、撤退を余儀なくされる。
この世で一番どうにかしてやりたい相手と、今、こんな形で向き合うことになるとは思ってもみなかった。
『麻乃はどうした?』
安部の問いかけに、いきなり消沈したところをみると、紅い髪の女……藤川と一緒に行動していたのは長田だったのだろう。
(いないと言われたときは、死んだものかと思ったが……やっぱりしぶといやつだ)
そう考えながら、ついフッと鼻で笑った。
相変わらず厳しい視線をこちらに向けたままでいる長田は、さらにキッとした。
サムのほうは、かけようとした金縛りが効かなかったことに納得がいかないようで、上目遣いで観察するように長田を見つめている。
聞きたいことは一つだったはずなのに、互いに変な思惑に囚われてしまったようだ。
「一度、話しの腰が折られたとは言え、こちらの状況と見てきたことはわかっただろう」
安部に向かってそう問いかけると黙ってうなずいた。
「きさまたちを呼び出したとき……泉翔の戦士たちが盛んに動いていたのは、大陸への侵攻準備か?」
「馬鹿なことを……俺たちは決して侵攻などはしない。俺たちの力は守るためだけのものだ」
「ならば、あの女が一人、離反したというのですか? それとも今、ここにいないほかのものも一緒に?」
泉翔の三人が顔色を変えた。苛立っているのが、表情にあからさまにあらわれている。
「おまえら一体、人の話しのなにを聞いていやがるんだ? 俺たちは決して侵攻はしない、そう言ったじゃねーか」
「フン……実はあなたがそう思っているだけで、あちらは違ったんじゃないですか?」
「ありえねーな。俺たちはずっとそうやって生きてきたんだ。あいつらも全員、意思は同じだ!」
サムと長田のやり取りを、安部はジッと見つめたままで難しい顔をしている。
最初に話しをしたときの反応といい、なにか強く思うところがあるらしいのが見て取れる。
そう言えば長田があらわれる直前、安部がなにかを言いかけたのを思い出した。
それがなんだったのか問おうとしたとき、安部は口を開いた。
「……あんた、いい加減、こいつを挑発するようなことをいうのはやめてくれ」
なだめるように長田の肩をたたいたあと、レイファーとサムを交互に見てから、安部は話しを続けた。
「俺たちは確かに今、これまでにないほど大がかりな戦争の準備をしている。けれど、それは防衛の準備だ。すべてを丸飲みにするつもりはないが、そうしろと言ったのは、そっちのあんたじゃないか」
安部の指がサムを指した。
サムはなにを思い出したのか、口もとを吊りあげて一人で含み笑いを漏らしている。
「サム……きさま、なにをしたんだ?」
身を寄せて問いかけた。
「以前、言ったでしょう? ジャセンベルに渡ってきたものたちに手を貸したと。それがこの人たちですよ」
「――あれか」
サムに呼び出された日、森の外れに黒焦げの遺体が転がっていたのを見ている。
あの日、倒したのは庸儀の兵だけで、泉翔の人間はうまく逃がしたと言っていた。
それがこの二人か。
(ロマジェリカに渡っていた長田は戻ってきた……とすると残りが庸義とヘイト……)
どっちも未だ戻っていないということは、恐らく残りはやられてしまっているのだろう。
「三国がなにかを企んでると言われれば考えつくのは泉翔への襲撃だけだ」
「どんな規模でくるのかわからないッスけど、うちはそう簡単に潰されたりはしない」
安部と長谷川はハッキリと言いきった。
どうやらそれに嘘はなさそうだ。
「わかった。俺たちはそれが聞ければ十分だ。紅い髪の女に加えて泉翔までロマジェリカと組むようであれば、さすがに我が国も分が悪い」
「――それだけのことを聞くために、わざわざ海を渡ってきたっていうのか? しかもたった三人で?」
納得がいかないな、安部のつぶやきが聞こえた。
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