第41話 ヘイト ~梁瀬 3~
敵兵の様子がおかしいことに、すぐに気づいた。
術の効きが悪い。
足止めをしようとしても思うように止まらない。
おまけに、さっき徳丸が確実に致命傷を与えたものがむくりと起き上がったのをみた。
「トクさん! こいつらロマジェリカ戦のときと同じだよ! 足を……足を狙って動きを止めるんだ!」
背後から剣を振りかぶってきた敵兵を突き倒し、徳丸は足を狙って攻撃を始めた。
ハンスや村人たちが、果敢にも敵兵に向かっているのを、梁瀬は大声で制した。
「ハンスさん! こいつらは普通じゃあないんです! さがって! 建物の中に入るんです!」
「見りゃあわかるわ! 強い暗示にかかっておる! どこかに印がある。そこを狙え!」
「印……?」
飛び掛かってきた敵兵を羽交い絞めにした。
首筋に痣のようなものがある。
小太刀を抜いて痣を裂くと、途端に崩れるように倒れ、動かなくなった。
(これまでは、首を切っても起き上がってきたのに)
必ずしも首筋に印があるわけではなかった。
腕に持つものがほとんどだろうか?
それでも、そこを狙うことで、おかしな動きを止めることができるとわかった。
徳丸も今の会話が聞こえたのか、敵兵への狙いを変えて戦っている。
村人のほうは、やはり一般人だけに、一対多数でどうにか凌いでいる様子だ。
兵数が少ない気がして、ざっと周囲を見渡した。
十人ほど足りていない。
(おかしい……残りのやつらはどこに?)
悲鳴が聞こえて振り返ると、村人が何人か、腕や足を押さえてうずくまっていた。
建物の陰から、村人を目がけてボウガンを乱射している敵兵の姿が見えた。
あれも印があるとしたら、術は効かないかもしれない。
駆け寄って小太刀で斬りつけると、ほかの兵とは反応が違う。
腕にも首筋にも痣はない。
それに一人は見覚えのある顔だ。
「おまえは……あの赤髪の女の側近だな!」
その男はニヤリと不敵な笑いを浮かべた。
「梁瀬! 屈め!」
徳丸の声に咄嗟に反応ができず立ち尽くした梁瀬の前に、ハンスが飛び出してきた。
ハンスの肩口に矢が刺さり、崩れ落ちた体を抱き止めた。
矢を撃った相手には徳丸が向かっている。
「馬鹿な……どうしてこんなことを」
「おまえさんになにかあったら、今度こそサリーに顔向けできんからな……」
矢を抜くと傷口から血があふれ出す。
上着を裂いて肩口を縛り、ハンスを村人にあずけ、さがるように指示をした。
うずくまっていた側近が、剣を振りかざして襲いってきたのを杖で弾いた。
「なぜ、村人にまで手を出す? 用があるのは僕らだけのはずだ」
「この村は、我らに従わない役立たずな村だ。おまえたちがここへ入り込んだのは、ここを潰す恰好の口実になったよ!」
これまでに経験のないほどの沸き立つ怒りを感じる。
梁瀬の中に流れるヘイトの土地の血が、沸々として体じゅうを駆け巡っているようだ。
大通りの向こう側では、徳丸が斧を振るい、村人たちを庇いながら戦っている。
逃げようとした側近に金縛りをかけると、ハンスを抱えた村人たちを振り返った。
「この村の人を、できるだけここから離れた場所へ……村の外れまでさがっていてください。全員が……ですよ」
「わ……わかった」
「それから……すみませんが、いくつかの家屋を駄目にしてしまうかもしれません。先に謝っておきます」
「そんなことは構いやしない」
ハンスの答えに梁瀬は苦笑いで返した。
退き始めた村人を確認してから残った敵兵を数える。
半数は残っているようだ。
徳丸と二人では防衛しきれずに、また村人を危ない目に合わせてしまうかもしれない。
(けれど、これ以上は……手出しさせたりしない)
「たった二人で村人を庇いながらなにができる! この状態で逃げられると、勝てると思うか!」
大笑いをして叫んだ側近を突き飛ばして大通りに転げ倒し、その顔を思い切り蹴りつけた。
それを見て潜んでいた庸儀の兵士が何人か飛び出してくる。
すかさずそれに金縛りをかけ、ひざまずかせた。
普段なら絶対にしない梁瀬の行動に、徳丸も驚いた表情で振り返った。
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