第14話 同調 ~マドル 5~
翌日からジェを筆頭に三国の兵士を集め、戦艦一隻に兵を百人程度乗せて、泉翔の各浜へ送り込んだ。
これで少なくとも一週間は、ジェを遠ざけておける。
侵攻した際に周囲の地形情報、泉翔側が防衛に出てくるまでの時間、戦士の数などを細かに調べさせるため。
建前として皇帝にはそう言っておいた。
兵たちには上陸しても深追いはせずに、すぐに撤退をするように言い含めてある。
同時に三カ所、ほぼ毎日のようにこちらから兵を送り込み、アサノを肉体的にも精神的にも疲労させておきたかった。
弱らせたうえで、あの老婆を使い、術がかかりやすくなるように下準備をする。
それが本当の目的だ。
そのときに文献も探し出して目を通し、鬼神についての詳細情報をも得るつもりでいる。
ジェがいない隙にできるかぎりのことを済ませた。
機嫌うかがいに必要以上の時間を割くのは極力避けたい。
何度か意識を繋げて気づいたのは、アサノの周りには、たいてい誰かがかたわらにいること。
どうやらそれを心地良く思っているようだ。
常に一人でいようとするマドルとは、正反対にある。
(こんな温いことでは、使いものにならないのではないだろうか?)
今はどうやら、戦場に出ていないらしいのも不満だ。
これでは泉翔へ兵を送りこんでいる意味がない。
それが数日後、突然、戦場に出ていた。なにがあったのかはわらないけれど、視線の先にはジェの姿がある。
体が異様に震え、左腕がまた痛む。
ジェは一体、なにをしてくれたのか。
アサノはひどくジェを意識しているようで、気持ちがざわついているのが伝わってくる。
事情は飲み込めないけれど、精神的に強い揺さぶりを与えたのは間違いない。
欲しかった伝承も、老婆を使ってその在処を確認した。
折を見てそこへ入り込み、必要な情報を集めればいい。
マドルは場所をしっかりと記憶にたたき込んだ。
葬儀当日、老婆に意識を移した。
葬儀に使う鈴のリズムを利用してアサノに暗示をかけた。
ジリジリと左腕に痛みが広がる。
同調する回数を重ねるたびに痛みが強くなっていくようだ。
痛みが強まるごとに侵食していく感覚が深くなっているのが、マドルにはわかる。
アサノは暗示にも少しずつ反応してきて、揺さぶりをかけて不安定にさせることができるようになった。
あと少しで完全に同調できるようになり、その身に干渉することも可能になるだろう――。
疲労も限界まで近づき、その日のうちにマドルはまた倒れ、十日ほどなんの術も使えないくらいに消耗してしまった。
それでもジェが戻ったときには自ら出迎えに行き、邪魔をされないように機嫌を取った。
当分は戦争を差し控え、来たる日のために物資や兵を十分に集めるように軍の上将に指示を出す。
出撃がなくなり、暇を持てあましたジェが、頻繁にロマジェリカに出入りして煩わしい。
「そう言えば、ヘイトですが、あの国はずいぶんと多くの同盟反対者がいたようですね」
「ああ、そうね。今回の泉翔偵察にも、出てきやしなかったよ」
「そうですか……反乱でも起こされると面倒なことになりますね。あのような小国とは言え、それなりの物資はまだ抱えているでしょうし」
「あの国は国王が絶対的な存在なんだ。それが落ちたんだから、反乱はないだろうさ。王のすることに逆らうような度胸のあるやつはいないだろ」
ジェはそう言うけれど、マドルはサムという男のことが、どうしても気になる。
あの男ならなにか仕かけてきてもおかしくはない。
「不穏な要素は例え、少しであっても排除しておきたいですね。会談の席にいた男のこともあるじゃないですか」
そのときのことを思い出したのか、ジェの顔色が変わった。
「そうね。あんたがそう言うなら、私が始末をつけてやろうじゃない」
「貴女一人にお任せしても?」
「何の問題もないさ」
ジェは立ち上がり、颯爽と部屋を出ていった。
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