第13話 同調 ~マドル 4~
その夜は、皇帝は大層機嫌が良く、庸儀の王を呼び立てて酒宴に興じていた。
馬鹿馬鹿しい光景だと思いながらも、少しだけ同席をしてから、マドルはすぐに自室へ戻った。
「そんなところにいないで、中へ入ったらどうですか?」
外の気配に声をかけると、静かに扉が開く。
マドルは扉に背を向けたまま、棚からビンとグラスを取り出し、机に並べた。
「まずはヘイトが貴女の思うようになりましたね。おめでとうございます」
そう言って扉を振り向く。
黙ったままで立ち尽くしているジェに、ニッコリと微笑んで見せた。
普段、表情を変えることなどほとんどしないマドルが微笑むと、雰囲気に柔らかさが出て、相手の気が緩むことを、ちゃんと知っている。
「どうかしましたか?」
いつもと違う雰囲気に飲まれているのか、なにも言わずに扉の前から動かないジェの手を取り、椅子に腰をかけさせると、飲み物をすすめた。
「あんた、このあいだ、本当は泉翔へなにをしに行ったんだい?」
ジェがつぶやく。
(やはりその話しを蒸し返すか……)
「私はあの国の戦士をほしいと思っているんですよ。できれば数人、良く動く戦士を捕らえることができたら……」
「あんな島国のこと、今はどうだっていいじゃないか! どうせ大陸を制覇したら、一気にたたきつぶしてやるだけだろう!」
ジェは立ちあがって思いきり机をたたいた。
その勢いでグラスが倒れ、床を濡らした。グラスを拾い上げ、丁寧に片づけてからジェを椅子に押し戻した。
「貴女は私が泉翔へ関わることが、そんなに嫌なのですか? 一体なぜです?」
あくまでなんの他意もない振りをして、ジェに問いかける。
マドルが知らないふうを装っているのに、わざわざ自分から鬼神の存在を明かすようなことは言わないだろう。
その証拠にジェは一瞬、黙った。
「あんたには私がいれば十分だろう? あんな国から誰かを連れてくる必要なんてない。うちの兵だって良く動くやつらばかりだよ!」
わざと大きなため息をつき、マドルはジェの手を握って立ちあがらせる。
「使える戦士をもっと増やしたいんですよ。より強固な部隊を作り、貴女のもとに置けば、危ない目に遭わずに済むじゃないですか。貴女がどう感じているのかはわかりませんけれど、私はこれでも、とても心配しているのですよ?」
そう言って腰に手を回し、そっと抱き寄せた。
赤い髪が鼻先をくすぐる。
(こんなところか……まったく、あのサムという男のお陰で、余計な手間をかけねばならない羽目になってしまった。このあと、どれほど時間を割けば済むのやら……)
ヘイトがロマジェリカにくだった今、できるだけ早く不穏分子は始末をしなければならない。
特にあの男は油断ならないぶん、急ぎ手を回す必要があるだろう。
余計なことを考えたせいで、つい腕に力がこもり、ジェが漏らした吐息でハッと我にかえった。
見なくてもほくそ笑んでいるだろうことはわかる。
マドルがジェに夢中になっていると勘違いをしていてくれれば、いろいろとやりやすいのは確かだ。
「貴女に少しばかりお願いしたいことがあるのですが……」
指を絡めて髪をなでると、耳元でささやいた。
あくまで笑みは絶やさないように気をつけながら。
顔をあげたジェの瞳が喜んでいるのか驚いているのか見開いた。
「あんたが私に頼みごとだなんて、珍しいじゃないの。いいわ、なにをしたらいいのか聞かせてちょうだい、ただし、あとで――ね」
マドルの首に手を回すと、真っ赤な唇で首筋に触れてきた。
(たやすい。けれど、どこまでも面倒な女だ)
腕に力を込めてきつく抱き締めると、フフッ、と満足そうなジェの笑い声が耳を通り過ぎた。
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