第180話 中央から南へ ~巧 2~
車が出ていった方角から考えると、次はどうやら北へ向かったようだ。
梁瀬は西にいるのだから、北には穂高だけだ。
(でもきっと、ヤッちゃんの式神が行ってるわね)
とすれば来ることをわかって待ち構えているだろう。
麻乃のことにしてもたずねられたところで北にはいないし、なんの情報もなければ巧と同じで、西にいると答えるはずだ。
黒玉をかばんに入れると、巧は急いで車を出した。
気は急いたけれど、余計なスピードや運転の荒さで、なにか起きては困るとできるかぎり丁寧にハンドルを捌いた。
南に入ったときには、午後一時を回ってしまった。
詰所に着くと、巧は取り急ぎ近くにいた隊員を捕まえ、徳丸を呼び出した。
あわてた様子で出てきた徳丸は、巧の顔を見るなり腰に手を当てうな垂れ、深いため息をついた。
「なんだ、おまえか……」
「ちょっとなによ? ずいぶんなあいさつじゃないのさ。そう身構えてるってことは、ヤッちゃんから来たのね?」
「あぁ、おまえのところもか?」
「自宅から宿舎に向かう途中にね。ここへ来る支度をしてるときに、シタラさまがいらしたわ」
かばんから黒玉を出してみせた。
ジッと目を細めてそれを見た徳丸は、しみじみと言った。
「思ったよりデカイな……こんなもん、良く八つも見つけたもんだ」
「そうね、それに今回に限ってじゃない? 巫女さまたちの祈りが捧げてあるって言うから、悪い感じはしないけど……まるでこの組み合わせになにか不安要素でもあるようで嫌よね」
「口に出さねぇだけで、みんなも思うところがあるんだろうよ、このところは特にな」
うながされて徳丸が使っている個室へ入った。
椅子をすすめられて腰をかけると、タイミングを計っていたかのように、隊員の一人がお茶を持ってきてくれた。
「それでもとりあえずは、おまえのお陰で麻乃も落ち着いたようだし、一番不安な部分が解消されて良かったじゃねぇか」
「それなんだけどさ……どういうわけか、シタラさまは麻乃を探してるようなのよ。自分の目で確かめたいのか、今は北に行ってるけど、そのあとここへも必ず来るわ」
「探してるって、あいつは今は西だろうが?」
「どうも西ではヤッちゃんにしろ、道場のほうにしろ、麻乃に会わせないように居場所を隠したようなのよね」
梁瀬のメモを受け取ってから、シタラと別れるまでの事を説明した。
徳丸は首をひねってブツブツとつぶやいたあと、巧を見た。
「それで簗瀬のあのメモか……? とすると向こうでなにかあったか?」
「それはわからないけどさ、なんの用があるのか知らないけど、ずいぶんと執拗に見えない?」
「あぁ、そうまでして一体、なにをしようってんだかな」
「それに最近のシタラさまは、なんだか少し……ねぇ?」
「こいつは修治には黙っておこう。あの野郎、今朝がたに受け取ったメモのことで、麻乃になにかあったんじゃねぇかと勘繰ってやがった」
「駄目よ。黙っていたってシタラさまがここへ来ればわかることじゃない。あの子なら今はおかしな行動には出ないわ。知らせてここでの対処を決めたほうが絶対にいい」
「そうか……そうだな、なにかあったかもしれないってのは、あくまで俺たちの憶測か」
低くうなった徳丸は数秒考え込んだあと、ドアを開けて通りかかった隊員に修治を呼ぶように指示をした。
やってきた修治をまじえ、シタラが来たときの対応と様子を三人でしっかりと見ることにしたうえで、梁瀬と連絡を取る旨を話し合った。
修治は西のことが気になって仕方ないのか落ち着かない様子で、部屋を行ったり来たりしている癖に行きたいとも言わず、振り切って飛び出すこともしない。
(これが鴇汰なら止める間もなく飛び出していっただろうに……)
ただ黙って耐えている姿があまりにも痛々しくて、いつもなら当たり前のように出てくる慰めの言葉も、今日は一言もかけられなかった。
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