第178話 中央から南へ ~徳丸 3~

 要するに修治も鴇汰も、芯の部分は似ているのだ。

 互いのおもての部分が真逆だから、自分に出せない部分を晒し出している相手が、鼻について仕方ないんだろう。


 最も二人の麻乃に対する感情は、まったく違うもののようだけれど……。


 徳丸にも数年前に嫁いだ妹がいるから、修治の麻乃に対する思いも、鴇汰のことが気に入らないのも十分過ぎるほど良くわかる。


(おまえのことは気に入らないが嫌いじゃない)


 そう。

 嫌いじゃないが、気に入らない。

 徳丸自身、妹の亭主に対してそんな思いを抱いていた。


 大事にしていた妹を持っていった相手だ。どんなにいいやつだろうが、どこか納得いかなくて、常に牽制していた気がする。

 今でこそ、そんな思いも薄れてはいるが……。

 消沈したままで、ちっとも箸が進んでいない修治を見つめ、つい含み笑いが漏れた。


「なにがおかしいんです?」


 眉間にシワを寄せた修治が、徳丸を軽く睨んでいる。


「いや……」


 咳払いをしてごまかすと、あらためて箸を進めた。

 コツコツと窓をたたく音が聞こえ、ふと視線を移すと、ツバメが一羽その嘴でガラスを突いていた。


「なんだ?」


 訝し気な顔の修治がに窓を開けると、食堂へ入り込んで中を一周し、目の前におりてきてその姿をメモに変えた。


「式神じゃねぇか……梁瀬か?」


 メモを開くと、西区に突然シタラさまがやって来た、と書かれている。


『要件は黒玉のペンダントを蓮華それぞれに渡すこと。お守りとして身につけろと言われた。それぞれの詰所にシタラさま、あるいはほかの巫女が回ってくる可能性がある。どんな順番はわからないけれど、時間から考えて西区に一番初めに来たと思われる。麻乃さんは眠っていたから会わせなかった。南区には、誰が何時ごろに来たのかを知りたい』


 走り書きで、それだけが記されている。

 腕時計に目をやると七時半を回ったところだ。

 ざっと目を通して修治にメモを渡した。


「……なんなんですか、これは?」


「さてな? よほど、あわてて書いたんだろう。どうにも要領を得ないな」


「西からここまでじゃ、婆さまを乗せてる車じゃ、七時間弱ってところですかね」


「北を回るとなると、ここへ来るのは夕方以降だな」


 もう一度、時計を見てからメモを読み返した。

 ほかの巫女が来る可能性があるというが、この時間に誰も訪ねてこないということは、シタラが一人で回っているのかもしれない。


 麻乃が眠っていたから会わせなかったってのは、一体どういうことなんだ?


 どうせ三日後には全員が中央に集まるというのに、一人でこんなにも手間をかけて回るのはなぜなのだろう?

 黒玉が価値のあるものだとわかっていても、たかが石だ。

 鮮度があるわけでもない。

 たった三日が待てない理由がなんなのか、徳丸はそれを知りたいと思った。


「梁瀬のやつ、なんだってこんなことを知りたがってるんだ?」


 なにか思うところがあるのか、修治の顔色が変わった。


「西から回ったことに問題でもあるんですかね? まさか、西に……麻乃になにかあったんじゃ……」


「なにかあったなら、直接そのことを書いてくるだろうよ。梁瀬のやつはとぼけた野郎だが、こんなときには意外としっかりしてやがるぞ」


「そうか……それもそうですよね」


「とりあえず、まずは飯を片づけちまおう。体を空けておかないとすぐに動けねぇからな」


 修治をうながして、残りの食事を急いで平らげた。

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