第177話 中央から南へ ~徳丸 2~
食堂では、早く起きてきた隊員たちが、もう食事をはじめている。
特に意識をして集めたわけではないけれど、徳丸の部隊は自分と同じ北区出身で体が大きく、力の強いものが多い。
そのせいもあってか食べる量も半端じゃない。
賄いの女性たちは、まだ来て間もないのに既に汗をかいて忙しなく動いている。
それを目の当たりにすると、いつも少しだけ申し訳なく思う。
窓際に席を取って食べ始めたころ、修治が入ってきたのが見えて、徳丸は声をかけた。
「相変わらず凄い量ですね」
御膳に目を向けた修治は呆れた顔を見せた。
「そうか? これはまだ少ないほうだぞ?」
徳丸が近くにいた隊員のほうへ箸を向けてみせると、向かいの席に腰をおろした修治は、そちらに視線を移して唖然としていた。
「うちの隊にいる北区のやつらも飯の量が凄いですけど、トクさんのところと比べると、やつらが小食にみえますよ」
「まぁ、ほかの区のやつからみたら、多いのかもな。俺らにしてみりゃあ、ガキのころから当り前に食っている量なんだがな」
つい笑う声も大きくなる。修治もフッと鼻で笑ってから食べ始めた。
「そういやぁ、おまえ、ジャセンベルは今年で何度目だって?」
「俺が初めて蓮華になった年と、七年前に出産で休んでいた巧の代わりに渡ってるので、三度目ですね」
「それなら多少は気が楽だろう?」
ピタッと食べていた動きが止まり、修治はおもむろに箸を置いた。
「そうでもないですよ。なにしろ、大陸は状況が大きく変わってるじゃないですか」
「あぁ、同盟だなんだ、とな」
「ジャセンベルの奉納場所は、ヘイトの国境にほど近い……小競り合いが続いているようなら、場合によっては相当近くまで敵兵が出ているかもしれない。両軍どちらに遭遇してもおかしくないんですから」
修治の表情が曇る。
「そうか。おまえ、やけに落ち着いてやがるから、そう心配したもんでもないのかと思っていたがな」
「あの国じゃ、巧がこだわりを持って続けていることがあるもんだから、少しばかり手間もかかるんですよ」
「植林か?」
徳丸が言うと、修治はうなずいた。
「あれは巧が蓮華にあがる前から続いてるからな……あいつ自身も、実は楽しんでるふうなところもある。なんでも引き揚げたあとに世話をしてくれるジャセンベル人がいるらしいじゃねぇか」
「ええ。俺は会ったことがないんですけど、麻乃はそいつに会ったみたいですよ。植物に詳しいようで、ずいぶんと育っているから驚きました」
「そうやってくれる相手がいるなら、こんな状態だ。今年は休んでもいいんじゃねぇのか?」
修治は背筋を正すと、しっかりと徳丸の目を見つめてきた。
「そんなわけにはいかないでしょう? 今年、休んだがために、すべてが無駄になるかもしれないんですから」
律儀なやつだ――。
ここまで考えている修治に感心しながら、徳丸は食べる手を止めて話し入ってしまう。
「本当なら、岱胡にもちゃんと話した上で、細かな情報を詰めていきたいんですけどね」
「話しに行ってくりゃあいいじゃねぇか、この所は襲撃もない、幸い今は予備隊も詰めている。一日、二日外しても問題ねぇぞ?」
「いや……岱胡は今、西ですから。俺が顔を出すことで、なにかがこじれても面倒なだけです」
修治はそう言って苦笑いをした。
そういえば西は常任で麻乃が詰めている。
顔を合わせて些細なことで揉めないとも限らないか……。
やっと落着きを取り戻したらしいのに、また不安定になったら今度は手を打つ暇もない。
「まぁ、会議もありますし、そのときにでも岱胡にはあらためて話しますよ。それからでも間に合うでしょう。向こうへ渡ったら岱胡のことは責任を持ってカバーするつもりですしね」
そう呟きながら箸を手に食事を始めた修治は、やけに寂しそうな表情になった。
麻乃と一緒になって感情をたかぶらせていた鴇汰に、冷静になれ、などと言ってたしなめていた割に、実は修治も同じように憤ったり落ち込んだりしている。
普段は感情をあまりおもてに出さないぶん、そうなるとひどく目立つうえに、徳丸にしてみると、珍しいものを見た気分になる。
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