第171話 シタラの眼 ~鴇汰 5~
シタラは渋々ペンダントを梁瀬にあずけた。
「心配せずとも車を出させてある、皆、余念のないよう心して準備をなされよ」
不機嫌な様子で会議室を出ていった。
シタラのあとを梁瀬が追う。
見送りと称して帰るのを見届けるつもりだろう。
(まったく、普段は頼りなさそうな癖に、抜け目のないオッサンだよ)
岱胡も同じことを考えているのか、ドアを見つめながらニヤリと笑った。
「俺、麻乃の様子を見てくるわ。あいつ、一人になりたがらなかったのに置いてきちまったからな」
「目を覚ましてたらマズイですからね、今、騒がれたら面倒なことになりますよ。早く行ってください。こっちも荷物をまとめたら戻りますから」
麻乃のいる会議室へ戻り、そっと鍵を開けて中へ入った。
まだグッスリと眠っている。その姿を見てホッとした。
ソファに一番近い椅子へ腰かけると、横になっている麻乃の背を見つめた。
(それにしても、なんてタイミングで来やがるんだ。まるで麻乃がおかしな夢を見たのを知っていたかのようじゃないか)
それに……あの青い瞳……。
梁瀬のようにヘイトの血が混じってるやつに、翠眼が何人もいるのは知っている。
淡かったり深かったりの違いはあれど、青い瞳を持つものなんて見たことがない。
鴇汰と同じロマジェリカの血が混じっているものも同じだ。
(庸儀は泉翔と同じ黒い瞳だし……)
鴇汰は窓から外を見た。
表門の辺りで梁瀬がなにかしているのが見え、その様子を眺めていると、梁瀬の手もとから三羽のツバメが飛び立った。
(式神……?)
ドアが開き、岱胡が隊員と荷物を抱えて戻ってきた。
「麻乃さん、目、覚まさなかったんスね」
「あぁ、今のうちに続き、やっちまおうぜ。俺、昼過ぎには梁瀬さん送ってくるからよ」
「いや、俺が行ってきますよ。鴇汰さんは麻乃さんとルート詰めといたほうがいいですって」
岱胡の胸のポケットから、シタラの持ってきたペンダントの紐がさがっている。
まだ身につける気がないのか、単にしまっただけなのかはわからないけれど、鴇汰も黒玉をポケットに押し込んである。
「一応、俺もルートのこととか話してありますけど、二人が納得できるコースをしっかり決めないと、向こうに渡ってから揉める原因になりかねないッスからね」
「そっか……そうかもしれないな。そんなら悪いけど頼むわ。こっちでなにかあったときは、俺もちゃんと対応するから」
ジャセンベルは巧が長い。
以前の蓮華と一緒のころから、ずっと使っているというルートがあって、今もそこを使っていた。
巧はいつも、豊穣の際に必ず奉納場所にほど近い空き地に、苗木や植物を植えている。
何代も前の蓮華から続いているらしく、巧自身も初めての奉納からずっと続けていると言っていた。
子どもができて休んでいたときには、麻乃が巧の代わりにそこへ苗木を植えたと聞いている。
岱胡にもそれを伝えた。
「植林ですか……?」
「そう。俺はいつも奉納場所の周辺に植えさせられてるんだけど、巧はずっと空き地のほうをやっててさ、これが結構良く育ってんのよ」
「へぇ、荒れた土地なのにそんなに育つもんなんスかね?」
「なんかな、俺たちがこっちに戻ったあと、その場所の世話をしてくれる人がいるらしいんだよな」
「それってジャセンベル人ですよね? そんな相手、良く信用できますね?」
岱胡にしては珍しく真剣な表情で心配そうに言った。
「俺は会ったことがねーんだけど、巧が初めて渡った年に知り合ったらしくて、信用できる相手だって言ってたぜ。まあ、敵兵じゃなくて一般人なら、そう警戒しなくてもいいのかもしれないしな」
「でも、苗木を植えてくるのは構わないんスけど、その相手とはできれば顔を合わせたくないッスね。巧さんが一緒ならいいですけど、俺たちを信用してくれるかもわかんないッスもん」
「その辺は多分、巧からなにか言ってくると思う。もしかしたら、もう修治といろいろと決めてるかもよ」
急に不安そうになった岱胡の背中を軽くたたき、続きを始めた。
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