第127話 再来 ~修治 3~
堤防に岱胡の部隊が立ち並び、遠距離から一弾一弾、確実に敵兵に当てている。
リュを撃ったのは恐らく岱胡だろう。
長距離でこの混乱の中、剣を弾いてくれるとは……さすがの腕前だ。
ジェの笑いが止まり、落ちた剣を拾いあげると麻乃に向かって走った。
修治はそれを追い抜き、麻乃の体をかばうように抱えると、紫炎で剣を受け止めた。
「残念だったな。俺がそばにいるかぎり、こいつには指一本も触れさせやしない。これ以上、仕かけてくるなら額の傷くらいじゃ済まないと思え!」
そう低くつぶやき、ジェに向けて思いきり殺気を放つと、ジェは怨みがましい目で、また修治を舐めるように見回してきた。
「覚えておいで。この私の顔に傷をつけた落し前は必ずつけてやる。あんたのことは絶対に忘れない!」
怯んで後ずさりをしながらも、口だけは良く動く。
(――薄気味の悪い女だ)
側近らしき大柄の男が数人、駆け寄ってジェを抱きかかえて下がり、その周囲を残った兵で固めさせると、撤退を始めた。
リュの姿もいつの間にか消えている。
「深追いするんじゃないよ! 怪我をしたものには手を貸して、堤防までさがるんだ!」
巧の指示が海岸に響く。
麻乃をそっと砂浜に横たえ、立ちあがって紫炎を鞘に納めてから、修治はあらためて砂浜を見渡した。
倒した敵は三分の二以上だろうか。
亡骸の数はかなりのものだ。
大陸でもジャセンベルを相手にしているはずなのに、まだ泉翔にこれだけの数を送り込めるほどの兵力があるということか。
麻乃を抱き上げた修治は、堤防へ向かった。
いったんは下がった麻乃の隊員たちが駆け寄ってきた。
「安部隊長! うちの隊長は?」
「大丈夫だ。頬に切り傷があるだけだ」
全員がホッとため息をついている。
詰所に麻乃を運ぶように指示を出し、大石に麻乃の体をあずけた。
それを見送っている修治の後ろから、巧が龍牙刀を納めながらやって来た。
「シュウちゃん、助かったわ。ありがとう」
「いや、俺のほうこそ、あんたにも岱胡の部隊にも助けられたよ。麻乃を殺ろうとしたやつを撃ったのは岱胡だろう?」
巧が、堤防に腰をおろしている岱胡を振り返った。
「そうよ、あんた、どうしてここへ?」
「俺、今日は休みで中央にいたんス。そうしたら敵襲の情報が入ってきて。数も数だしロマジェリカ戦のことがあったし、念のために援護にと思ってきたんスよ」
「気が利くじゃないの。ありがとうね」
「ちょうど麻乃さんが斬られそうなのが見えて……焦って撃ったんスけど、間に合ってホントに良かった」
巧が岱胡の背中をポンポンとたたくと、照れくさそうに頭を掻いてから、嫌なものを見るような顔で問いかけてきた。
「赤髪の女がいましたよね?」
「あぁ、なんのことはない、とんだ偽物だ」
吐き捨てるように言った修治の言葉に、巧が鼻で笑う。
「戦いにもおりてきやしない、魅せるためだけのようなあの格好、麻乃もあんなのを相手にしなくて良かったわよ」
「うちに諜報で入り込んだリュとか言ったか、あの野郎がいやがった。そこから情報が流れたんだろう、取って代わろうと麻乃を始末しにきやがったんだ」
腕を組んだ巧は、遠ざかっていく敵艦に視線を向ける。
「だから、あんなに麻乃に兵が集中したのね」
「なにをされたのかわからないが、ひどく動揺していた。倒れたのもそのせいだろう」
岱胡は隊員たちに、後処理の手伝いをするように指示を出してから振り返った。
「取って代わってなんの得があるってんでしょうね? 偽物じゃ、麻乃さんほどの力もないッスよね? 役に立つとは思えませんけど」
「あの女はイカレてやがる。なにを考えてるかわかりやしない」
思い出すと嫌な後味が胸に広がる。
また攻め込まれたときに同じようなことにでもなったら……。
そのときも今日のように割って入れるとは限らない。
これまでのように、麻乃の部隊と組んでいないことに不安を覚えた。
「俺は高田先生を岩場に待たせたままなんだ。すまないが、これで戻らせてもらう」
「あぁ、そうね。構わないわよ。でも、麻乃のことはいいの?」
「俺がいると、なにがあったかも話さないかもしれない。なにか聞けたらあとで教えてくれ」
苦笑いを浮かべ、巧の肩をたたくと、修治はそのまま岩場へ戻った。
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