第126話 再来 ~修治 2~
圧し込んできた剣を流して弾き、バランスを崩してよろけた敵兵の顔に、修治はハッとした。
「おまえ……あのときの!」
かつて諜報で入り込んできたリュとかいう男だ。
続けざまに打ち込んでくるリュの攻撃をかわしているうち、背後から麻乃に迫った敵兵に気づいた。
(まずい! 向こうを受けきれない!)
そう思ったとき、背後の敵兵と麻乃のあいだに濃紺の影が飛び込んできた。
顔は確認できなくとも、上着で麻乃の隊員だとわかる。
「安部隊長、どうしてここに!」
「小坂か! 説明はあとだ、何人かで周りを固めて敵を散らしてくれ!」
「わかりました!」
倒れた麻乃の姿を見た隊員たちの士気が上がったのを感じた。
背後で次々に敵兵が倒れていく気配を感じる。
修治は立ちあがり、月影を構え直してリュを睨みすえた。
「よくもまた、この国に足を踏み入れることができたもんだな。おまえ、こいつになにをしやがった」
「思い出深い島だからね、昔はなかなか楽しませてもらったけれど、今日は後片付けに来ただけだ」
薄ら笑いを浮かべたリュが答えるのと同時に斬りかかった。
「おまえごときに、こいつが片づけられるかよ」
「あと少しじゃないか」
肩口から突きかかってきた剣を、右の月影で弾き返すと、左でもう一刀の紫炎刀を抜き様に右へ流して斬りあげる。
リュの脇腹をかすめ、修治から飛び退いた足もとに血が滴った。
リュの顔に焦りの表情が浮かんだ。
「きさま……」
「この国から持ち帰った情報をもとにしたってのに、ずいぶんとお粗末な偽物を連れてきやがって、おまえだけは黙って帰すわけにはいかないな」
「ジェさまを愚弄するのはやめてもらおうか!」
剣を構えたリュの肩を白い影が引き戻した。
いつの間に戦艦をおりてきたのかジェが目の前に立っている。
「いつまでかかってるんだよ、あんたはさっさとことを済ませてしまいな。こいつは私が相手をしようじゃないの」
リュを突き飛ばして修治の前に出てくる。
片手には剣をさげ、長い髪と白いドレスが風に揺れた。
間近で見ると、妙な威圧感が漂っている。
月影を鞘に納めて紫炎を構えると、勢いだけで振りかざしてきた剣を逸らす。
ジェが左側を執拗に攻撃してくるのを、修治は様子を見るために受け流し続けた。
(腕前はたかが知れているな)
そう思い応戦すると、逃げるのはうまい。
けれど、ただそれだけで基本も型もなく、闇雲に向かってくるだけだ。
基礎からみっちりこの体にたたき込まれ、実戦で何年も経験を積んできた修治には、ただのこけおどしにしか映らない。
容易に倒せると踏んで、力を込めてジェの剣をたたき落とした。
驚いた顔を修治に向けたあと、不敵な笑いを浮かべて修治を舐め回すように見つめてくると、甘ったるい声を出した。
「あんた、やるじゃない。私と一緒に来ない? あんな役にも立たない女のところにいるより、よっぽどいいわよ」
(この女……イカレてるのか? この俺に来いだと? 麻乃が役に立たないだって?)
リュを相手にしていたときから感じていた怒りが頂点に達した。
紫炎を握り直してからジェに斬りつけた。
下から掬い上げた一振り目が、余裕を見せるように軽く後ろへ飛び退いたジェのドレスの裾を裂き、そのまま斜めに切りさげた刃先が額を斬った。
赤髪がひとふさ落ちる。
息を飲んで額を押さえたジェの指の隙間から血がにじみ出た。
「偽物風情が! くだらないことを言いやがる。これしきの攻撃もよけられずに、よくも麻乃を役立たず呼ばわりできたもんだな。浅いんだよ、なにもかもが!」
ギリギリと歯噛みしながら、修治を睨みすえてくるジェの全身から殺気を感じる。
それも先だって麻乃が放った殺気に比べれば、微塵も恐怖など感じない。
「私の顔に傷を……本物がなんだっていうんだい! この世から消えてしまえば、私こそが本物だ!」
「戯言を――!」
もう一度踏み込もうとして、いつの間にか麻乃のそばから離れてしまっていることに気づいた。
振り返ると、リュが今まさに麻乃に剣を突立てようとしている。
周囲にはそれに気づいているものはいないようだ。
(しまった!)
ジェの高笑いが響く中、咄嗟に小柄を投げようとしたとき、リュの手から剣が弾け飛び、その体が大きく仰け反って倒れた。
「なんだ! なにが起きた!」
修治はすばやく周囲に視線を巡らせた。
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