治療の一種? - 「ぐちゃぐちゃ」 [KAC20233]
蒼井アリス
治療の一種? - 「ぐちゃぐちゃ」 [KAC20233]
洋介がある刑事事件の弁護を引き受けたのが一ヶ月前。事件の調査を進め事実が判明するにつれ洋介は被告人の無実を確信した。無罪を勝ち取るために洋介は猛と協力して真犯人を探し始めたのだが、思いの外あっさりと真犯人を特定することができた。
真犯人は被告の友人で、恵まれた環境で育ち大学での成績も優秀な被告を妬んでの犯行だった。
犯人の特定までは問題なかったのだが、この犯人、追い詰められて反撃に出てきた。
建設中のビルの工事現場に猛と洋介を誘い込んだのだ。
暗がりの中、足音だけを頼りに真犯人を追い詰めた猛と洋介だったが、それは犯人の罠だった。
物陰から突然二人に飛びかかり、エレベーターシャフトの穴に突き落とそうとしたのだ。
猛は咄嗟に身をかわし事なきを得たのだが、洋介は避けることができず穴の中に落とされてしまった。
穴に落ちそうになっている洋介の手をつかもうと猛は手を伸ばしたが、その手はむなしく空を切るだけだった。
――ドスン
洋介の体が床に叩きつけられる鈍い音が響く。
「洋介!」
猛が洋介の名を呼んだが返事はない。
猛もエレベーターシャフトの穴に落とそうと犯人が殴りかかってきたが、今の猛は怒れる猛獣。
洋介を傷つけられた怒りが込められた拳をまともに受けた犯人はあっけなく気絶してしまった。
近くに落ちていたロープで犯人を縛るとすぐさまエレベーターシャフトの中を覗いたが真っ暗で何も見えない。
「洋介!」
もう一度名を呼んだがやはり洋介からの返事はない。
スマホのライトで穴を照らす。思っていたより深くない。最悪の事態は避けられそうだ。
周囲をスマホで照らすと下へ降りられる足場を見つけた。すぐに下に降り、洋介の呼吸を真っ先に確認する。
「よかった……生きてる」
洋介が生きていることを確認して少しばかり落ち着いた猛はすぐに警察に連絡し、救急車を呼んだ。
洋介の怪我の具合を確かめるために体をあちこち触っていると、洋介が意識を取り戻した。
起き上がろうとした洋介が身体の痛みに声をあげる。
「洋介、動くな。骨折はしてないが左肩を脱臼してる」
痛みに耐えている洋介の顔色がどんどんと青ざめ、冷や汗が流れ始めた。
痛がる洋介を何もせず見ているのは自分の内臓を抉られるよりも辛い。
「洋介……脳みそをぐちゃぐちゃにしてぶっ飛んどけ」
「はっ?」
意味が分からず文句を言おうとした洋介の唇に猛は噛みつくような激しいキスを見舞った。そして、洋介の息が快感で乱れ始めるまで攻め続けた。
洋介の意識が痛みから逸れた一瞬を狙って猛が洋介の腕を力いっぱい引く。
「うあ゛ぁ!」
激痛に耐えられず出した洋介の声が真夜中の工事現場に響き渡る。
荒療治ではあるが脱臼していた洋介の左肩は何とか元の位置に戻った。後は医者に診てもらうまでしっかりと固定しておけば大丈夫だろう。
猛は洋介のネクタイをスルリと外し、そのネクタイで洋介の腕を体に固定した。
少し落ち着いた様子の洋介の唇に、猛は自分の唇を今度は優しくそっと重ねた。
遠くからパトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。
作者注:怪我をした場合は素人判断で処置はせず、専門家の指示に従ってください。本作に登場する猛は専門家ではないものの怪我をするプロなのである程度の判断はできるようです。くれぐれも彼の真似はしないでください。
治療の一種? - 「ぐちゃぐちゃ」 [KAC20233] 蒼井アリス @kaoruholly
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