第8話 One more!

 あれから、何回かダイヴによるアナザーバースの調査を行い、一先ひとまず向こう側からの敵対行動や敵対心は無いという事が分かった。



 ただ、それで逢禍がアナザーバースと名付けられた向こう側の世界に渡った事を無視出来る理由にはならず、世界にはアナザーバースに逃げた逢禍を駆除するという使命が増えた。


 まずは転送装置の安定化と安全性の確認を《社》に行ってもらっている。

 これからは下の世界へと旅をする職業が増えていくのかもしれない。




「はーい月花ちゃーん!離乳食でちよー」

「…まんまんま」

「何かママって呼ばれてるみたいで嬉しいいいい…」

「あぶあぷー」

「もうこれは将来ノーベル賞を取る位の天才に育っちゃうのでは!」


「六花の溺愛が凄いな」

「夢にまで見た三人家族生活だもん!コロちゃん入れたら四人なんだけどー♡」

「にー♡」


「月花が離乳食を零さないのは凄いな。これは食いしん坊になるな…なったら俺の血だ…」


「間違いなくパパの血ね!いや、私も食べるの好きだけど!」

「顔は殆ど六花似なんだよなー!」


「と、なると中身はパパ似で賢い子にー!」


「血が繋がってるなぁって実感出来る育ち方して欲しい」


「するでしょー!私達の愛娘だもん!」

「あむあむー」

「もうご馳走様?はーい、お口吹いてねー…ハイいい子!」


 ママが台所に食器を持っていくと、台所に着いていかない様にコロが月花のお尻の辺りを咥えて止めてるあたり、コロ様育児も凄い!ってなってしまう!

 流石は我が家の長女!


「コロちゃん本当に凄いよねー!何でも出来ちゃうの♪」

「いや本当に…って小町、何処から発生した!?」


「こんな美人を熱帯低気圧みたいな言い方しなーい!ねー式部ちゃん!♪」

「だうー!」


 二人とも言葉を覚えるのが楽しみだな。


 どんな子供になるんだろう…

 俺みたいにツッコミ強めの子にはならないで欲しいかな?



「小町は…式部ちゃんにどんな子になって欲しいんだ?」


「特に望む事はないけど、強いていうならママと映画を一緒に見てくれて、後は素直な子だったらいいかな?♪」


「そうだよな…幸せに育ってくれたらそれでいい」


「わぁお、お姉ちゃんいらっしゃい!うなぎのタレ味のソーダあるけどいる?」

「飲みたーい!♪」

「パパはカレー味のソーダかキムチ味のソーダあるけどどっちにする?」

「しれっと二択にするなっ!アイスコーヒーがいい」


「はーい!」



「六花も小さい時の感情が少なかった頃に比べたら明るくなったなぁ…お姉ちゃん嬉しいよ…♪」


「突然家族が増えて、甘え方が分からなかったし、宮司さんは甘えさせてくれなかったからなぁ…」


「反動で今ベタベタな甘え方だけどねー♪」


「二人共それだけ仲が良いのに何故小競り合いをする…?」



「それは月ちゃまは私のですからね!」


「何も取って食おうとかじゃないよー!二時間!サービスタイムの間だけ!♪」

「取って食うつもり満々だし、リアルな時間出すなー!」


 因みに横でもう力比べが始まってます…




 騒がしいので、コロ、月花、式部ちゃんを連れて犬沢池のベンチで軽い日光浴をする。


 良い天気だけど、日差しが強すぎないので丁度よい暖かさ。

 赤ちゃんズの顔が直射日光に当たらないように角度はつけている。



「あれ?お兄ちゃん!?」


「芽衣、今日はお買い物?」


「うんうん、薬事法や免許を気にしないで、超有毒なお薬を顔パスで買える馴染みの店があってね!」

「また俺向けの毒薬買ってきたのか…」


「…察しが良すぎる!」

「これだけヒント出てて分からないなら、某メガネ小学生探偵アニメであるところの毎日一緒に位してて目の前の小学生の不振さに気づかないねーちゃんばりに察しが致命的に悪いだろっ!」


「赤ちゃん可愛いー!♡」

「会話のキャッチボールって知ってるかっ?」


「どっちが私達の子?」

「どっちも違うわ小学生!!…赤ちゃん抱いてみるか?」


「え!いいの!?」


「なんだかんだ芽衣は信用してるから大丈夫だよ」


 月花の抱き方を教えながらそっと渡す…


「はぁぁぁ…めちゃくちゃ可愛い…♡」


「あ、そういえばじいちゃんは?」

煌桜きららちゃんと御朱印巡りに行ったよ?」


「ばあちゃんと仲良さげで良かったよ」


「最近はご飯作ってくれて一緒に食べたりするからフードデリバリーが少なくなって嬉しいかなぁ…煌桜きららちゃんのお料理美味しいし!」


「酒だけは絶対飲ませるなよ?恐ろしく人格変わるからな?それで破局したらかなり悲しい」


「うん、めっちゃ気をつけるね!」



 芽衣も何だかんだで女の子だからか、赤ちゃんが相当気に入った様だ。

 目を覚ました月花を笑わせようと変顔をしている。


 そういや、式部ちゃんは…めっちゃ起きてた!

 そして滅茶苦茶熱い視線で見られているっ!

 …だがこう見えても俺も人の親!式部ちゃんの攻略も心得てる!

 ポケットから出したジョークグッズのゾンビの指!!!


 そっと式部ちゃんに持たせると、途端に笑顔になった!

 お父さんは知らないが、小町の子供だなぁ…って感じる瞬間だ。



 芽衣から月花を受け取ると、ママ達がようやくやってきた。


「あらー式部ちゃん!いい物もらってご機嫌でちねー!」

「あぷぷー!」

「ホラーグッズの効果覿面てきめんだな」


 赤ちゃんズがママの元へ帰っていく。


 月花はママっ子なのか六花が抱いてると機嫌が良い。

 もうちょっと俺も好かれる様に頑張ろう!



「ねねね、月ちゃま?」


「ん?」


「一人多くない?」



「……え?」


 ① 俺

 ② 六花

 ③ 赤ちゃん(月花)

 ④ 小町

 ⑤ 赤ちゃん(式部ちゃん)

 ⑥ 芽衣

 ⑦ 赤ちゃん



「待て、芽衣!その赤ちゃん何処から!?」


「横のベンチに置き去りにされてて、身体が冷えてたから抱っこしてるの」


「嘘だろ…とりあえず警察に連絡するよ。芽衣は良く気づいた!偉い!今日は遅いから家に帰りな?」


「分かった…赤ちゃんお願いね!」



 芽衣の俺への扱いが初見の赤ちゃんより低いのを感じたが、まずは警察に連絡する。


 椅子に放置されていた間に身体が少し冷えていたのか、冷たく感じたので皆で家に入る事にした。


「月、私の方が体温高そうだから預かるね」

「頼む…」


「迂闊だった…隣に赤ちゃんがいたなんて…」


「赤ちゃんを置いて帰るとか普通考えないから月巴の責任じゃないよ?時間逆行は最終手段?」

 小町が哺乳瓶の支度をしながらアイデアを出してくるが…


「最終手段だな、最悪見つかりそうにないなら親の姿だけ見てこようと思う」



「どんな理由があれど、あんなとこに赤ちゃん置き去りにしたら駄目だよ…気づかなかったら死んじゃってたかも…」


「六花のいう通り!お母さんになったばかりの私達からしたら信じられないよ!六花、ミルク出来たから飲ませてあげて♪」


「お姉ちゃん、有難う!」



 赤ちゃんの口にちょんちょんと当てると条件反射で咥えてくれた。


「飲んだ飲んだ!ちょっと安心…うちの子より少し小さいね」


「そうだな…まだハイハイも出来ない位小さいよ…」


 月花のおむつ替えをしながら、色々と考えてるが月花と式部ちゃんに加えて芽衣もいたから周りを見てなかったのを後悔する。


 まず警察の監視カメラの情報等に期待したいが、いきなり施設に預けてそれで終わらせてしまう事は心情的に出来ない。

 人の親になったばかりだから尚更だ。


「少し温まってきたよ!丁度いいしこの子もおむつ替えしちゃうね!」


「六花が今世紀一頼もしい…♪」


「もーお姉ちゃんたらー」


「それだけ手際がいいのに料理が出来ないのは何故だ…」


「それを言われるとわかんにゃい…パパが料理出来るから安心してるのかも!」


「月花が大きくなったら作らなきゃいけない時が絶対出てくるから小町に引き続き習いなさい」


「はーい!♡」




 取り敢えず数日様子を見るつもりでコロにもお願いすると気持ちよく了承してくれた気がする。

「ににーん♪」


 今、コロが背中に赤ちゃんを乗せてゆらゆらしているから赤ちゃんはすやすや眠っている。


 スキルで解決もも考えたが、手持ちのスキルでは手掛かりを掴めそうになかった。




 むーっ!むーっ!

 美姫さんから着信だ。


「私だ」


「美姫さん、何か分かりましたか?」


「防犯カメラをチェックして、その時の様子を確認したんだが、結論から言うと親らしき人物は写っておらず突然赤ちゃんがベンチの上に急に現れてる。間違いなくスキルを悪用している」


「そこまでして置き去りに…現時点では悪意しか感じないが…」


「このままだと戸籍が作られ、親を知らない子として福祉施設で育つことになる。子供にとっては辛い道のりが待っているな」


「親の意思が知りたい…ネグレクトなのか、それとも何かしら理由があるのか」



「昔から、犯人は現場に戻るというが、母親の愛情を信じて張ってみるのもいいかもしれんな」




「美姫先輩から?何か情報あった?」


「いや、なかった。けど、母親の愛情を信じてみるよ」







 翌日からは祝日を入れた連休で、犬沢池の周辺は祝休日は観光客とフラペンの行列で一杯だ。


 その中で、遠くから一人、赤ちゃんが居たベンチの方を気にする女性が居た。


 周囲を気にしつつ、そのベンチだけをちらちらと伺っている。


 やがてベンチの傍に来ると、気にしない振りをしつつ、通りすがろうとした。


 だが、ある物を見て露骨に態度を変えた。


 ベンチの裏、池の手すりに赤ちゃんの産着が吊り下げられていたからだ。


 女性は思わず手を差し伸べたが、俺が手を掴んだ。



 吃驚して俺の方を見返し、何か言いたげに口を開くが何も言えずに言葉を飲み込んだ。


「貴方は、あの時…子供三人といた子沢山の人…」


「八割位間違ってますが、二割はあってます。あの子の子供のお母さんですね?」



 何はともあれ、大声で話す事情じゃないので家へ招いた。



「おーうおー!浮気ですね!?」


「六花、十割間違ってるからお茶をお願い」


「そうよー!浮気相手は私なんだからー!♪」


「小町、それも十割違う」



 とりあえず元気なお子さんを手渡すと、大粒の涙を零し始めた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


 心なしか、お母さんに抱っこされて赤ちゃんも嬉しそうだった。



「何故、スキルを使ってまでお子さんを手放そうとしたんですか?」


「…何を言ってもいい訳になりますが、先の大戦で私達一家は何とか言い伸びる事が出来ました。ですが、家業の工場が大戦の時に破壊されて経営出来なくなりました。廃業し、夫は働きに出ました。けど…運悪く交通事故で他界してしまい…私の心は折れました。夫の元へ逝こうとしたのですが、どうしても娘は一緒に連れて行く気になれなくて、人通りの多いあの場所に姿を消して残していったんです…」


「大戦を生き残られたんですね…ご主人の事は心中お察しします」


「もしかしたら自殺を仕切れなかったのは貴方みたいな子沢山がいらっしゃって、幸せなお姿を見て決心が鈍ったのかも知れません」


「うん、子沢山はは間違いです…って、そこの姉妹爆笑しなーい!!」


「私もね、旦那がいないんだ。でもね、子育てを続けていく内にその人と似ているとこを見つけちゃったりして、段々成長が楽しくなってくるの。大戦の心の傷やリアルな問題は市も警察もボランティアもいてくれてる。何なら私達も育児の相談に乗れる。一緒に乗り越えよ?」


「有難う御座います…有難う御座います…」


 無事に捜索届は引き下げ、小町がチャットアプリのアドレスを好感し、お母さんは頭を深々と下げて赤ちゃんと帰っていった。


 あの大戦は色んなものを奪っていった。


 もう、これ以上奪わせはしない!




「あー子沢山は笑ったー!私と式部ちゃんも月巴の籍に移そうかな!?♪」


「俺より年上の子供はいらんっ!!!」

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