合縁神社

黒幕横丁

ようこそ合縁神社へ

 この世にはどんな“縁”でも結んでくれるという神社がある。

 それがこの合縁神社。その噂を聞きつけて、日本各地から縁を結びたくてたまらない人たちが押し寄せてくる。

「押さないでください! まだお守りは十分にありますから!」

 そんな大忙しの神社でたった一人、巫(カンナギ)をしてあくせくと働いているのがぼくだ。

 古のバーゲンセールみたいな惨状をなんとか抑えようとするが、右フックアッパー終いには大変勢いのある足踏みマッサージまで受け、ぼくはズタボロになりながら地面と同化していた。

「おやおや、君は地面と縁を結びたくなったのかな? 私が直々に結んで進ぜよう」

 そんなところにぼくがそもそもこういう状況になっている元凶が、地面で伸びているぼくを見て笑いにやってきた。

 柄の西の長と書いて、エニシオサと読む。この合縁神社の神職だ。

 柄西家の神職に就いているものは皆、縁を結ぶ力に長けているらしく、中でも長は特にその能力が高いらしい。

 一族の中でもエリートなのでいけ好かない性格をしているのだ。

「どうせ、ぼくには効きませんよ?」

「そういえばそうだったね、これは失敬。そろそろ、客人が来るから一般の参拝は終了したいのだが看板を立ててきてくれるかな?」

「客人?」

「あぁ。代議士の先生とその秘書さ」

「あー……」


 縁といってもいろいろある。恋愛の縁、家族の縁、友好の縁、そして、金の縁。

 自分たちが発展していくがために、時に人は金の縁に焦がれる。

「いやぁ、柄西家の皆様には祖父の代から毎回お世話になっていますよ、ガッハッハ」

 小太りの代議士が大層偉そうに扇子で自分を仰ぎながら笑う。

「いえいえ、先生もいつもありがとうございます。今度も応援させていただきますね」

「長さんの祈祷があれば百人力ですよ。では、失礼しますな。アッハッハ!」

 偉そうな態度はそのまま代議士たちは帰って行った。

「毎度見ていて思いますが、あの代議士は偉そうで嫌いだ。そんな奴の縁まで結ばないといけないなんて大変ですねー?」

 ぼくはわざとらしく長に訊く。

「これも地盤固めってやつさ。……まぁ、それも今回で終わりだろうけどね」

 長はとてつもなく悪い顔をしていた。

「終わりって?」

「私の縁の結び方は縁が逃げないように“固結び”をする。本来は時がくれば自然と離れていくものをずっと繋ぎ止めているんだ。だから、結び目が多くなればなるほど良くないことも起こりえる。あの代議士は何度も結びに訪れているものだから、それはもう因果や運命なんてものが“ぐちゃぐちゃ”だ。いつかは自分の首を絞める結果になるだろうが、私はそんなこと知っちゃこっちゃない」

 長のこの世の者とは思えない表情にぼくはゾクッと寒気を覚える。


 何事もご利用は計画的にとぼくは心の中でそう思った。

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合縁神社 黒幕横丁 @kuromaku125

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