第5話 紅葉を聴取する
学校で「野外活動服」とか「第二運動服」とか呼んでいる服を着ている。普通に言うとジャージだ。
野沢紅葉は「地域人材育成科」というコースの生徒で、このコースには農業実習がある。
実習の時間ではないので、ほかの生徒はいない。
海から寄せてくる波の音がずっと響いている。その海に近い高台にある畑の木陰で、成美と
野沢紅葉は、太り気味なのはその長岡満桜子と同じで、満桜子ほども背丈のない、かわいらしい感じの子だった。口をだらっと開いたときに見える
「ああ、そんな話、してましたね」
紅葉は言った。
「
笑って言ったのか!
「
成美は、取り調べをする刑事のように、鋭くきく。
「
「
これは、あの清楚少女の
「直接は聞いてないけど、満桜子、初美とは仲いいですから、言った可能性は高いですね」
「
「聞いてるかも知れませんけど」
「じゃあ、初美か晶菜がまただれかに話す可能性は?」
「あ、初美はわかんないですね」
成美の言いかたが緊迫していくのに、返事をする紅葉はずっとマイペースのままだ。
「晶菜は言わないでしょ。他人の秘密を人に漏らすような子じゃないから。あ」
何か思いついたらしい。
「初美だってそうなんですけど、もしかすると、事態の深刻さがわかってないかも知れないから」
つまり、「他人の秘密を人に漏らすような子じゃないけど、漏らしてはいけないくらいに深刻だということがわかってない」ということだ。
成美がきく。
「紅葉自身は? だれかに話した?」
その事務的に「きりきり聴く」という様子がやはり刑事っぽい。
「話してないです」
でも、紅葉は不愉快がりもせず、普通に答えた。
「ほら。あれって、経験者じゃないと、話がわからないじゃないですか?」
そのとおりだ。よくわかっている。
……って?
「ってことは」
と瑠音は身を乗り出していた。
「紅葉も経験者っ?」
その質問のしかたでよかったのか、と思ったけれど。
「あ、もちろん」
悪びれもせず。
紅葉は笑った。
目を細めて。
紅葉という女は!
「ほら、わたし、こんな体型じゃないですか? 先輩たちと違って」
「ああ」
つまり、太っている、ということだろうけど。
「うん」
うん、と肯定してよかったのか?
「だから、全身、きゅっ、っていうのはないですけど」
あれは……。
あれは「全身、きゅっ」と言うのだ。
あの……。
瑠音がやられた、あれは。
「でも、お尻、
ああ!
これは、たしかに、畑の木陰でしか、話してはいけない内容だろう。
「でも、恒子さん、不公平ですよねぇ」
瑠音が半分以上硬直しているのにも気がつかないらしく、紅葉は言う。
「自分のお尻は触るの絶対に許さないくせに」
「ああ。やっぱりそうなんだ」
瑠音は安心した。緊張が抜ける。
恒子さんは、瑠音の手が恒子さんの下の下着に触れると、いきなり冷めてしまう。
最初のときを含めて二度ほど経験して、気づいた。
でも、それは瑠音だけではなかったのだ。
「瑠音」
成美にたしなめられて、瑠音は、あっ、と思った。
秘めておかないといけなかったのに……。
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