第3話 まじめで、嘘がつけない子

 その日の放課後、瑠音るね成美なるみといっしょに学校を出た。

 成美は背が高い。そのぶん脚が長くて、歩くのも速い。

 でも、瑠音も体力には自信があるから、ついて行くことはできる。

 校門を出てからだいぶん経ってから

「瑠音をややこしいことに巻きこんだ。ごめん」

と成美が言った。

 「いや、その」

 瑠音はまだよくわかっていない。

 「あそこに集まったメンバーは?」

 共通点は、みんな生徒会役員で、しかも、「GSジーエス」とか「GアンドS」とか呼ばれる進学コースの生徒だ、ということだ。

 「向坂さきさか恒子つねこがあれをやってるって知ってるメンバーのうち、ま、言ってみれば、信頼できる四人。ま、朱理あかりが信頼できる、ってことだけど」

 「あれ」とは「恒子さんのそれ」のこと、とはすぐにわかる。

 恒子さんが別荘に生徒を呼び出して、パジャマに着替えたり着替えなかったりして、マットレスの上にいっしょに寝て……。

 「じゃ、朱理さんは知ってるんだ?」

 「もちろん」

と成美は言い、表情を曇らせてちらっと瑠音を見る。

 「スーパー書記補だよ。知らないわけないじゃない?」

 ああ、そういう理由か、と瑠音は安心した。

 「でも、あの柚子ゆうこって子は?」

 たしかに清楚な美人だけど。

 補足説明する。

 「いや。ただの主任委員じゃない?」

 身分制社会の生徒会のなかで、あそこに集まったほかの子は書記補以上なのに、この子だけが主任委員だった。

 成美はさっきよりも表情を曇らせた。

 「あれはスーパー書記補二世。まあ、書記補にはなってないけど」

 それはそうだ。

 GSから選出の書記補は、ここにいる二人、成美と瑠音だけなのだから。

 「つまり、朱理が副書記になって仕事が変わって、扱いきれなくなったトラブルシューティングとか相談ごととかを引き継いでるの」

 「へえー」

 かわいい顔をして。

 清楚だけど打たれ弱い顔をして、そんなポジションにいるんだ。

 感心した瑠音に、成美はさっきよりけわしい目を向ける。

 前に向き直ってから、言う。

 「ほんとはさ、わたしは瑠音は関わらせたくなかったんだ」

 「えっ?」

 瑠音は驚く。

 でも、成美が連絡をくれたのだし……。

 「朱理の指示でね。瑠音は入れてほしい、って」

 あのスーパー書記補の朱理さんが!

 瑠音は一瞬で「天にも昇る気もち」になる。

 もちろん、生徒会の役員だから、瑠音は朱理さんを知っていたし、朱理さんも瑠音を知ってはいた。

 「古原こはら」という苗字を、たいていみんな「ふるはら」と読むのに、「こはら」と読んでくれた。

 それ以上に。

 こんなことに動員するくらい、信頼してくれていたんだ。

 「瑠音は、まじめで、嘘のつけない性格で、有能だから、って」

 「有能」!

 朱理さんは、瑠音を有能だと思ってくれている!

 でも。

 「じゃあ、成美がわたしを関わらせたくなかった理由って?」

 「まさにそれ」

と、成美は瑠音を見ないまま、言う。

 「まじめで、嘘がつけないから」

 つまり「朱理さんの言ったことマイナス有能」だ。

 「これ、いまからやろうとしてるのって、裏工作っていうものだよ」

 成美が続ける。

 「まあ、野沢のざわ紅葉もみじが相手なら、そういうのはないと思うけど、ばあいによっては、脅したり、駆け引きしたり、嘘ついたり。瑠音って、そういうの、得意?」

 「いや」

 苦手だ。

 でも、できない、ってわけじゃないんだから、と言おうとした。

 しかし、その前に、成美は言った。

 「宮下みやした朱理って、百パーセント信頼しちゃいけない子だよ」

 反感。

 どうして、成美は、そんなことを言うのだろう?

 でも、成美はそれには答えなかった。

 「じゃあ、これからのミッションの基礎知識ね」

 学校の坂を下りて、駅のほうには行かず、成美はそんな話を始めた。

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