第2話 満桜子のタイツの後始末
次の日、
行ってみると、そこにいたのは、
丹羽柚子は銀色フレームの眼鏡をかけていて、「ザ・清楚美人」という印象の子だ。肩の少し下で髪を切りそろえている。
朱理さんは、背はそんなに高くないものの、色白で、すなおな髪をしている。派手ではない。成美の半分の派手さもないだろう。でも、「
生徒会は身分制社会だ。
会長の下に、副会長、書記、副書記という役職があり、書記補はその下になる。その下に、主任委員、ただの委員と続く。
柚子はただの主任委員、瑠音と成美は書記補、朱理さんは副書記で、上の立場だ。
前期には朱理さんは書記補だった。そのときの活躍で生徒たちによく知られていて、「スーパー書記補」と呼ばれている。困ったことがあって生徒が相談に行くとすぐに対応してくれる。ときには生徒指導部を相手にして生徒の言いぶんを通す。それで「スーパー書記補」として評判になり、十月の選挙で副書記に当選した。
いまは成美と瑠音が書記補だけど、瑠音はもちろん、成美にだってそんな活躍はできそうにない。だから、朱理さんはやっぱりスーパーなのだ。
そのスーパーな朱理さんが言う。
「昨日、
「梅大沢」ときいて瑠音の心臓がどくっと音を立てた。
あの別荘……。
朱理さんが、あそこを知ってる!
瑠音が「どきっ」としたのに気がついたのだろう。成美が瑠音を見る。
「長岡満桜子って」
清楚な丹羽柚子が、その外見からするとざらっとした声できく。
「一年生の主任委員?」
「そう」
朱理さん、あまり機嫌がよくない。
たしかにそんな一年生がいた。
一年生にして主任に上り詰めたのは何かいいところがあったからだろう。
でも、たしか、ぽっちゃりしていて、体が大きい子だ。ねずみを飼っていると言ってがはがは笑っていた。
かわいいといえばかわいい。
でも、とても恒子さんに似合うとは思えない!
そんな子が、あの別荘に?
朱理さんも歯切れ悪くことばを切った。
成美も、成美らしくもなく、ためらってから口を開く。
「その満桜子が恒子さんを怒らせて、タイツを巻き上げられた」
「怒らせた、って?」
また、声がざらっとした丹羽柚子がきく。
「だから……」
朱理さんが言うのを、成美が軽く手を上げて止める。
「だから、恒子さん」
と言って、朱理さん、柚子、瑠音を順番に見る。
軽く息をつく。
「節約のために、よけいな説明はなしで行くよ。恒子さん、自分の
「ふうん」
柚子が言う。
「ふうん」ということは、この柚子は、恒子さんに脚を撫で回されたことはないのだろう。
ない。
答えは、ない、であってほしい。
そして、たぶん、そうだ。
関心がなさそうだから。
「うん……」
朱理さんが表情を曇らせ、成美を横目で見る。
「それ、だれ情報?」
「
一年にしては背が高くて、細くて、どこから声が出てるの、と言いたくなるような、ちょっと音色の変わった声を出す子だ。やっぱり一年生の主任委員だったと思う。
ため息をついて、言う。
「そこまで伝わってるかぁ」
「あたりまえ」
成美は冷たく言った。
「だって、満桜子が得意になって言いふらしてるんだから」
言いふらす!
とんでもない!
瑠音はあの別荘に行って下着を恒子さんに取り上げられたことが何回かある。
でも、それを言いふらしたりしない。梅大沢に行ったことも、成美は知っていたけれど、ほかにはいっさい言ってない。
朱理さんがきく。
「その言いふらしてるのって、どの範囲?」
「うんー」
成美が口をとがらす。
「まあ生徒会役員の範囲だね。その外には出てないと思う。それ以外は、恒子さんの別荘に、って言われてもわからないから」
「つまり」
と朱理さんが
「生徒会メンバー以外にその話が漏れたらアウトなわけ。だって、恒子さんのそれまで知られてしまうんだから」
恒子さんの「それ」。
「それ」の相手が、瑠音。
そして、成美……。
柚子は、どうだろう?
朱理さんが抑えた声で続ける。
「だから、役員以外に話が漏れる前に抑えないと」
「じゃあ」
と成美が言う。
「
その全員が一年生の主任委員だ。
「
その名を出したのは朱理さんだ。
一年生の、まじめそうなかわりに暗そうな女だ。この子も主任委員をやっている。
成美が言う。
「晶菜は、満桜子とは仲いいけど、まじめだから。そういうの知ったら、まじめに怒りそうだし、たとえ知ったとしてもあの性格だから晶菜が言いふらすことはないと思う」
「じゃあ、そのへんの一年生主任委員かな?」
朱理さんが言う。
「とりあえず、末廣晶菜を除くその三人と接触して、まず、これ以上広めないように言って、それから、これ以上広がっていないか、事情を聴く。成美は山下通と親しいんだよね?」
「うん」
「じゃあ、成美はその通担当、柚子は?」
「じゃあ、尾久山初美に接触してみる」
清楚な丹羽柚子が言う。
「それじゃ」
と朱理さんは瑠音を見た。
「
「は……」
いや。
その野沢という子は、いるのは知っているけれど、これまでことばをかわしたこともない。
それに、接触して、事情を聴く?
そんなことができる?
普通のことならともかく、この「恒子さんのそれ」は、話が広がらないようにきかないといけない。
でも、もと「スーパー書記補」だった副書記の言うことだ。
聞かない、断る、という選択肢はない。
「……い」
「ああ、ちょっと待って」
と成美が割って入った。
「
「うん」
朱理さんは軽くうなずいた。
柚子が
「じゃ、朱理は何するのさ?」
ときく。
とてもまっとうな質問だ。
「わたしは」
と、朱理さんはさわやかに言った。
「長岡満桜子がほんとにほかのだれかに言ってないか、探っとく」
と言って、小さくうなずいて見せた。
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