●自然恒星メガ再構築計画(イカロス・ファスト)#3

キーーーーーーーーン

とうい耳鳴りを感じるほどの無音状態が襲い、明るい空色の空間に囲まれるように保護された。ボロボロに崩れかけていたシビルバリアに取って変わり、全員をシールドした。

全滅に瀕しているイカロス・ファストの中で、メルト率いる第4部隊が戦闘帰還率トップを誇るのは何故なのか。

その答えは、この将軍メルトのサブセンス【超防御】の力によるところが大きかった。

圧倒的なFDの攻撃力といかにやり合うかを考えた時、イカロス・ファストとして最前線で戦う彼女達にとって、最も頼りになるサブセンスと考えられた。

「全員無事か?」

そう言うメルト将軍の元に、みんな集まりそれぞれに親指を立て戦意を表した。

「よし! ここから反撃に移るぞ」

「ボスのサブセンスがあるから、ミー達安心して戦えるんです」

ベルトリカの言う通り、隊員たちはこの将軍の防御力に絶大の信頼を置いていた。何度も死線を掻い潜り、過酷な実戦経験の中から掴み取ってきたメルト部隊だけが持つ信頼関係だった。


メルトのスカイゾーンによって、辛うじて難を逃れた隊員達は、反撃の狼煙よろしく一斉にラピスマシンガンを景気付けにぶっ放す。

これがメルト第4部隊独自の、戦闘開始の合図になっていた。


ダダダダッ!ダダダダッ!ダダダダッ!ダダダダッ!


戦闘開始の火蓋が切って降ろされた。

部隊全員の距離が近いので、指示は肉声で叫ばれた。

「カンナ、ジル左から回り込め。ザコ3匹押さえ込め!!」

ベルトリカ隊長の命で、2機は同時に翼を翻し、ザコのいる地表に降下して行った。

シューーーーーーン!

シューーーーーーン!

2本の排気雲を残し、同時にシビルビームで迎え打つ。

ザコ2匹を弾き、3匹目に着弾した。

「ナイス! カンナ」

「ジル姉さんこそ、狙い正確っす」

2人が的中に喜んでいると、

「ぼやぼやすんな! さっき倒した4匹目が復活すんぞ! ミーの後に続け。頭出したら出会い頭に潰せ!」

今度はベルトリカが先頭を切って、切り込む。

「カンナ! リングビームで口を封じろ」

「承知!!」

カンナはレフトウイングの機体に搭載された、長距離射程のリングビームを構え、スコープを覗いた。

4匹目のザコは、頭を溶岩の地表から持ち上げ、今まさに復活しようとしていた。

照準は、その頭部に合わされた。

「発射しまっす!」

そう叫び、カンナがトリガーを引いた。

ボッ◎ボッ◎ボッ◎ボッ◎ボッ◎と、リングビーム特有の鈍い重低音を発し、蛍光グリーンの光の環が間隔を開けて連続して発射された。

光の環は、次々とザコの口に填まってゆき、キュンキュンとその口を締め付ける。必死にその拘束を振り解こうと藻掻くが、無駄な抵抗だ。

「残念っす。そいつは絶対ハズレね〜〜〜よ」

カンナは生意気な笑みを浮かべた。

《ベルトリカだ! カンナ、拘束確認した。ミーとジルで撃退する。爆風域に入るから、そのエリアから離脱し待機せよ》

《承知》

カンナ機はUターンし、爆風域から安全圏へ退避した。

その様子を確認すると

《ジル! 発射角の45°。ミーと間隔200mとれ。ラピスミサイル同時発射。ツイン砲で仕留めるぞ》

《OK! わたくし、もうスタンバイOKですわ。発射合図いつでも宜しくてよ》

ベルトリカの指示より先に、ジルは既に発射態勢に入っていた。

《何だ! ジル、ミーが言うより先に……。またサブセンス使ったな》

ジルのサブセンスは【読心】。

考えを先読みして行動するクセがある。

部隊では毎度の事なので、黙認する向きがあった。

唯一ベルトリカだけは、隊長という立場上注意はするのだが、戦闘時には結構重宝する能力であるため強く否定も出来なかった。


《3、2、1、シュート!!》

2本のミサイルが火を噴いた。

シューーーーーーン!!

シューーーーーーン!!


ミサイルはきれいなV字の奇跡を描き、目標へ向かって行く。

口を拘束された4匹目のザコの頭部で、見事に炸裂した。

今度は頭部を粉々に吹き飛ばしたので、もう復活はない。

カンナのリングビームとベルトリカとジルのV字ミサイルの連携で、ベルトリカ隊はリベンジを果たした。

《カンナ、ジル。敵討ち完了だ!》

ベルトリカ隊はトライアングルを組み、スパイラル飛行をした。

毎度お馴染みの勝利の凱旋飛行だ。

《ベルトリカ隊! 見事だった……だが、浮かれすぎだ! まだ肝心の親玉が残ってる。さっきのスカイゾーンで一時地中に避難したようだが、いつ頭を出すか解らない。依然、集中監視体制を崩すな》

女将の一括で、ベルトリカ隊はピタット通常飛行に戻った。


改めて地表を見下ろすメルトサーチ第4部隊。

チャーミと伽藍も2機を欠き、現在7機での1・2・2・2の変則フォーメーションを組んでいた。

フツフツと沸き立つ溶岩の泡がブシュッと破裂する度、ビビリのジルは耳を平たく寝かせていた。そんな性格を補うために、自分は読心というサブセンスを授かったのではないかと、彼女自身感じていた。


ビリリリビビビッ★★★★★★★


7機を包む大気が嫌な振動を伝えた。


《来るぞ!!》

メルト将軍の発した一声で、全機に緊張の糸が張り詰めた。

予測通り、真下の地面がグワッ!!と隆起し、次の瞬間もの凄い勢いで主竜(親玉)が牙を剥いて垂直に迫ってくる。


ブヲ〜〜〜〜〜ン!!

という熱風を伴い、溶岩石を撒き散らす。

辺りは一瞬にして灼熱地獄となった。

たまらず、7機は個々に飛来する溶岩を避けた。

もはや飛行陣形を整える術もなかった。

嵐に巻き上げられた木の葉のように、ちりぢりになり、

ただ気流に巻き込まれ操縦不能にならないよう、必死に操縦した。

追い打ちを掛けるように、主竜はクリムゾン・ブレスを狂ったように吐き散らした。

ゴ===========ッ!!

ゴ===========ッ!!

ゴ===========ッ!!

連続で、ただ乱射を続ける。


メルトもサブスキルを発動させたが、流石のスカイゾーンもバラバラになった隊員全てを、広範囲にリカバリーすることは出来なかった。

比較的側にいた、シュナイダーとキャンベルの2機を取り込むのが精一杯だった。

《各自、自分でどうにかしろ!!》

と、飛ばした無線も何人が受信できたか知れない。

ビュンビュンと飛び交う溶岩を機体スレスレで躱しながら、それぞれが失速しないように操縦するのが精一杯の状態だ。


そんな中、メルトとそのスカイゾーンに守られた3機だけは、再度トライアングルを組み直し、立ち向かう構えに入っていた。

「シュナイダー、キャンベル。主竜はあたしらだけで仕留める……、サブセンス全開で行くぞ!!」

女将の言葉に、並々ならぬ覚悟が滲んでいた。

敏感にそれを感じた2人は生唾を飲み込み、少し間を置いて答えた。

「遣ってヤルよっ」

「賛同します。メルト隊ライトウイングの実力を見せてやります。20秒後、真下よりブレス攻撃が来ます。将軍、防御頼みます。自分はラピスビームで先手を打ちます」

「そんじゃ、あたしはそのビームに乗って【反重力】で飛び込むよっ! 接近戦だ。ブレス吐く前に、開いた口にラピスボムぶち込んでやる」

シュナイダーの捨て身の戦法だ。

辺りは既に、スカイゾーンによって水色に染まっていた。

シュナイダーはラピスビームの照準を、主竜の開きかけた口に合わせトリガーに指を掛けた。

「シュート!!」

キャンベルが引き金を引く。


シュオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!

と…白銀に発光した一筋の帯が、真下から迫る驚異に向かって発射された。「行くよっ!」ブオン===○と身体を浮かせた。

すると、シュナイダーの姿は朧になり、発射された光の帯に纏わり付く。

両手に手榴弾のようなラピスボムを2つづつ抱え、大きく振り被った。

主竜の半開きの口からはみ出した牙が、目前に迫っている。


大きく開かれた主竜の口内が、眩しいほどに発光し始めた。

〈シュナイダー! 今だ、投げ込め!!〉

後方でメルトが叫んだ。

同時にシュナイダーは4つのボムを、その口に投げ込んだ。

今まさに発射されんとしていたクリムゾンブレスと反応し、ラピスボムの起爆装置が作動する。


バチ★バチ★バチ★バチ★バチ★バチ★

紫の閃光を放ち、

パチパチキャンディーのように、ボムが弾ける。

誘爆を起こし、主竜の両顎は粉々に砕け散っていった。


シュナイダーは、その爆風をスローモーションで感じていた。

〈あぶない! 被爆する。 離脱しろ!〉

メルトはそう叫びながら、スカイゾーンを最大出力に上げ背後に迫っていた。

およそ約1秒、【反重力】で後退する身体を水色の幕が覆った。

メルトの【超防御】がどうにか間に合った。

辺りは凄まじい赤黒い爆風が吹き荒んだ。

砕け散った赤黒い主竜の屍は飛来岩石となり、凄まじい勢いで辺りに飛び散って行く。

〈このままじゃ、マズいぞ。現場を直撃するな〉

〈はい将軍。拡散範囲が広すぎます〉

実際、スカイゾーンを広げても、岩石の半分は後方へ擦り抜けていた。

〈ただ、自分の【予知】では、マイヤー隊長を含むベルトリカ隊4機が、バイパス72の手前で迎撃ブロック体制に入ってます〉

キャンベルの読みに頷き、メルトは広域無線を発信した。

《ベルトリカ隊、マイヤー。主竜の残骸がそっちへ飛んでいく。現場を死守してくれ!》

《イエッサ》

《承知》

《OK》

《ラジャ》


「やつら、吹き飛ばされたと思ったが……。無事だったか」

「うちの隊の連中は、みんなしぶといですよ」

シュナイダーが【反重力】を解き、実体化しながらそう答えた。

「自分もそう思います。あの4人が防衛してれば心配ありませんね。射的の名手カンナもいるし、いざとなったら、マイヤー先輩が【瞬転】使えば、広範囲にリカバリー出来ますよ。さっきのボムだって先輩ならもっと楽勝でしたよ。主竜の口元まで瞬間移動できたでしょうし……」

最後は少々僻み口調になった。

「シュナイダー、キャンベル。ここはあたしが防御してるから、お前達も応援に行け!」

2人は頷き、機体を翻して現場へ急行した。


一方、主竜の大爆発で巻き起こった溶岩石を迎え撃つベルトリカ隊。

ベルトリカ隊長とカンナ、ジルの3機は息も付かせぬ勢いで、ラピスビームを撃ちまくっていた。

〈カンナ! 一固まりも逃すな! ジル、デカいの破壊すると、細かい破片が散らばるから、その処理をしろ〉

ベルトリカ隊長の指令が、2人の部下のヘッドフォンからガンガン鳴り響いていた。


シュ〜〜〜〜〜ン!ドカン★バッキューーーーーン!!バスッ○

キュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!

戦場と化した現場周辺の空域は、凄まじい爆発音の嵐だ。

隊長がつい声を張り上げるのもムリは無かった。

目まぐるしく破裂する岩石の隙間を、シュン、シュンと移動しながら、撃ち漏れた岩石をマイヤーが週間移動しながら、処理していた。

この展開は、正にキャンベルの予想通りだった。


〈カンナっす。一発ミスりました。姉さんフォロー頼んまっす〉

〈右舷70。カンナ、確認した。たった今、破壊完了〉

〈ベルトリカだ。左120°より巨大岩石接近。3点集中砲火だ! 同時発砲せよ! 3、2、1シュート!〉

シュオ〜〜〜〜〜〜〜〜ン シュオ〜〜〜〜〜〜〜〜ン シュオ〜〜〜〜〜〜〜〜ン

3本の光跡が空を飛来して、巨大岩石に突き刺さった。

見事にヒットした。

が、大きすぎたのか、粉砕することは出来ずに、ただ真二つに割れただけだった。

〈やばい! このままじゃ現場に突っ込むぞ。マイヤー、どうにか出来ないか?〉

〈1個だけなら、なんとか。もう一つは無理で〜〜〜〜す〉

欠片の片方に回り込み中距離バズーカ砲で、木っ端微塵に砕いた。


片方の欠片が修復現場へ迫っている。

「だめだ、間に合わない!! こっちから撃ったとしても、射線に現場が入るし、回り込むには時間がない」

その時だった、ベルトリカの視野の横から2機の機影が見えた。

シュナイダーとキャンベルだ。

岩石の欠片を左右から挟み込み、同時にビームが炸裂した。

一瞬の発光に目を眩ましたが、噴煙が収まると親指を立てて、2人がベルトリカの元へ飛行してきた。

〈よくやった。シュナイダー、キャンベル助かった。ミー達、お手上げだったんだ〉

ベルトリカ隊長から、感謝と賛辞の無線が入った。


主竜爆破の衝撃も収まり、メルト将軍もスカイゾーンを解いた。

《全員集合せよ》

メルトが部隊に召集を掛けた。

2名を欠く隊員6機が将軍の元に集合し、ホバリングで空中停止した。

時計を確認し、メルトは今度は肉声で伝えた。

「任務開始より23時間40分が経過した。先程第7CRのカルマより補修作業完了の報告を受けた。戦闘及び現場保護、ご苦労だった。我が隊も2名を欠いたものの、被害の程度は然したるものではない。これにて任務終了。一旦ベースに帰還する」

「あいよっ」「賛同」「イエッサ」「承知」「OK」「ラジャ」


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「すごい戦いだったね。ミーメ」

マーサは後視鏡の中を、飛び去って行くイカロス・ファストの雄姿を観ながらそう呟く。ミーメも同調して「でも、フレアドラグーンって超怖い……。あんな迫力、観たことない」と付け加えた。


「じゃが、これでマーサの疑問は解決したじゃろう」

モアモアはマーサに確認した。

「ええ、婆さま。やっぱりハウラーは消えたんだわ。

あのお母さんのサブセンス【瞬転】っていう技と一緒だもの…。母譲りだったのね」


マーサは深く頷いて納得した。

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