●自然恒星メガ再構築計画(イカロス・ファスト)#2

「将軍、 頭擡げてきます! こいつ口開いたら、クリムゾン・ブレス撃って来ます」

「くっっそ、生意気な目つきしやがって。やる気満々だな。シュナイダー! 下に潜って下顎ぶち抜いてやれ! あたしは上からヤル! 口を開けさすな!」

「あいよっ! わたし…ですね。行きますよ。5秒後にラピスビームぶっ放します! シンクロしてくだせい」

シュナイダーは機体を180°反転させ、 FDの顎の下に器用に回り込んだ。さすがにメンバー1のフライトテクニックを誇る腕だ。

FDの口をすれすれで交わしてベストポジションに付ける。

「シュート!!」

「よし! 合わせるぞ!」

青紫の光線がFDの上下から同時に発射される。

メルトサーチと、その右腕シュナイダーの連携がバッチリ決まった。

戦闘回数にしたら何千回を越える熟練したタイミングだ。

FDは上下からの攻撃を暗い、口を閉じた。

「ナイッス!! 将軍バッチリ口封じ成功ですね」

キャンベルが声を掛けた。

「今回のFDはジルとカンナが遣られたくらい速いヤツだ。うちの部隊じゃ、キャンベル……お前しか追いつけない。リードブロックを任せる。お前の予知でどうにか対応しろ」

キャンベルは総員300名からなる《イカロス・ファスト》中で、メイシ族だけが持つ【未来予知】という特殊なサブセンスを唯一収得していた。


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※サブセンス(Sub Sense)

ハイ・シビルだけが有する特殊能力。クラスチェンジ(進化)の際に覚醒する。この星の大気中には、太古から存在した様々な能力染色体が浮遊していた。

シビル族がハイ・シビルへと進化(クラスチェンジ)する時点で、この大気中の能力染色体を取り込むようだ……と、推測されている。

だがその実体は未だ謎のままだ。

通常なら女性染色体(X)と男性染色体(Y)が組み合わさり(XY)という染色体となる。ハイ・シビルはこの男性染色体(Y)の代わりに、大気中の能力染色体(Z)と結び付いて(XZ)という染色体の形態を取る。

突然変異ともいえる確率で出現するため、未だにその絶対数はシビル族全体の僅か3%という希少な存在である。

さらに遺伝進化学の見地では、男性が存在しない理由も、染色体(Y)を排除する為だと考えられていた。

ただハイ・シビルが、どんな能力を発動するかは、誕生の瞬間に取り込む(Z)染色体の種類によって異なるため予測は困難だった。

ハイ・シビルは誕生してから3年間の潜伏期間を経て、3歳の時に初めてその能力に目覚める。

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「将軍。また自分ですか? なんかそんな気がしてましたけど。……左舷10°よりアタック来ます。右に交わして下さい。あと15秒後に親玉がライジングしますから、自分が迎撃します」

メルトサーチのRWであるキャンベルの予知のおかげで、最速の2名の上をいく戦闘態勢を作れた。数多くのハイ・シビルで編成された《イカロス・ファスト》の部隊の中で、メルトのチームがここまで生き残ってきた一番の理由は、このキャンベルの能力による所が大きかった。


親玉はグインと鎌首を持ち上げ、ビュンと下から襲ってくる。

一瞬速くキャンベルがラピスミサイルを発射した。

ビューーーーンと白い排気帯を残して、ミサイルはFDの鼻面にヒット!

紫の爆煙が上がり、FDはもんどり打って、再びメガの地中に退散した。

「キャンベル姉さん。ナイス!」

LWのシュナイダーがそう言ってガッツポーズをした。

「まだ、油断できないよ! 一旦潜っただけだ。やっかいなのは地中から直接打ってくるブレスだ。こいつは自分の予知でも読めない」

「キャンベルの言う通りだ。シュナイダー、シールド張っとけ! ヤツのクリムゾン・ブレスは強力だ。まともに食らったら、骨まで灰になるぞ!」と、メルトの檄が飛んだ。

「あいよっ」

「賛同」


《メルティー! こちらマイヤー。ベルトリカ隊と合流完了》

《ボス! ベルトリカです。マイヤーを加え、変則スクエア陣形でメガ表層を警戒飛行中 オーバー》

《メルトだ。マイヤー、ベルトリカ、了解した。こちらの迎撃で親玉も地中に潜った。下からのダイレクトブレスに備えろ。ザコのバーストにも要注意だ!!》

《イエッサ》

《ラジャ》

《承知》

《OK》


将軍より無線を受け、4機のジェットは菱形の陣形をとり、低空飛行を続けた。


その時だった、メガの軌道上に浮かぶレスキューステーションから、メルトサーチ率いるイカロス・ファスト第4部隊は通信を受信した。

[こちらステーション! 婦長の紅丸です。先程収容したマイヤー隊チャーミ及び伽藍の2名、無事に治療を終えたわ。ただしジェットマシンは2機とも大破。戦線に復帰するのはムリね]

《みんな! 今のアナウンス聞いたな。チャーミと伽藍の現場復帰は期待できない。あたしら7名で以後バイパス72の冷却ダクト修復まで、ロイドの警護を行う。全員覚悟して任務に当たってくれ》

メルトの厳しい言葉に、もう誰も反発しなかった。それぞれに勇敢な戦士であるイカロス・ファスト第4部隊は、意を決してロイドの作業を見守った。さらにはその下のメガ地表の変化に細心の注意を払っている。


と、地表が嫌な変調をきたす。

赤黒くフツフツと煮えたぎるメガの表層を、ウネウネと燻らせながら不気味な動き……。まさに潜伏するFDだ。

ブッシュ〜〜〜〜〜ン!!

巨大な白煙を撒き散らし、FDが再び顔を出した。

幸いバーストした1匹は、まだ再生していないようだ。

《ボス! ベルトリカです。左舷45°下方よりFDが顔を出しました。どうやら親玉のようです》

《こちらメルト、了解した。ベルトリカそれで、ザコはどうなった?》

《ザコはまだメガ内部に潜伏しているもようです》

《ベルトリカ隊それにマイヤー、充分注意! こっちも直ぐに応援に向かう。5分で着くから、あたしらの到着を待て。くれぐれも単独で迂闊な攻撃はするな。全員で総攻撃を仕掛ける。解ったな!》

《イエッサ》

《承知》

《OK》

《ラジャ》


しかしFDの親玉は、直ぐに頭上を飛び回るうっとうしい小虫に感づいた。

黒色ルビーのように輝く、6つの目玉が飛行する4つの機影を捉えた。

「ヤバいっす。やつこっち睨んでます」

カンナの言うとおり、FDがこちらを見据えて口を開きかけた。

「こりゃ〜ブレスが来るぞ! 全員このまま下方向に集中して、防御シールド最大出力!」

ベルトリカの指示で、4機は一斉に紫の幕に覆われた。

4つのシールドは下方の1点で、集中して重なり合い、幕の色は暗紫色へと濃度を高めてゆく。

親玉の周囲でモゾモゾと地表が疼き始めた。

「親玉の出現地点より半径20mの範囲にてザコ3匹、フレア予測」

ジルが不吉な予測報告を伝えた。

予測通りザコが深紅の火柱をあげて出現、とほぼ同時に親玉がその口角からクリムゾン・ブレスを発射した。


バリュ〜〜〜〜〜〜ン!!

ゴゴゴ=======ッッ


凄まじい噴出音とともに、黄金に発光するブレスの帯が4機をスッポリと包み込む。

「全員フル防御だ!! どうにか耐えろ!」

ベルトリカの檄が飛んだ。


ジジジッ! ジジジッ! ジジジッ!

とラピスバリアが数千℃というブレスの衝撃で、ビリビリと震えるような悲鳴をあげた。

摩擦放電による稲光が周囲に拡散した。

バリアに亀裂が生じ始める。


「もうムリっす……」

カンナは耐熱スーツの襟元をギュッと握りしめた。

おまけに両サイドと後方から、フレアをまとったザコ3体が赤黒い牙を剥いて迫る。


万事休す。


4人は眼を閉じ、奥歯に力を込めた。

《遅くなって、スマン!!》

凄まじい衝撃音の中、かすかにメルト将軍の無線が届いた。

同時に、メルトのサブセンスである【超防御】スカイゾーンが発動した。


➡️continue to next time

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