10.マレーナ伯爵令嬢、魔法学園編へ突入でしてよ!

 一年後、王立貴族魔法学校のパーティにて、


「嗚呼、いつ聞いても素晴らしいですわね! マレーナ様の武勇伝はっ」


「勇者と共に悪を打ち倒す物語、本になっていないのが惜しいくらいです……」


「まあまあ、そんなにおだてられても何も出せませんでしてよ?」


 無事に武闘大会で優勝を果たし、憎きクマローク伯爵一味に罪状を叩きつけ、その功績などから王家支援でのヴァルドネル家復興を成したマレーナは、学校生活を謳歌していた。


「まさしく、マレーナ様は強き女性のシンボル! 改めて憧れてしまいます〜!」


「ですから、あまり褒め過ぎないでくださいな……っと」


 手を握ってぶんぶんと上下させる学友たちから距離を取って、会場にある壇上近くへ向かう。今日はなんと、ここでマレーナと侯爵家の長男であるコヤークン・ハーキンとの婚約発表が行われるのだ。


(半分は政略結婚のようなもの……ですが、彼個人は嫌いではありませんし、友好な関係は築けていますわ)


 学園に編入してからの一年を思い返す。最初は元没落令嬢として偏見の目で見られたりもしたが、彼女は負けなかった。持ち前の芯の通った真っ直ぐさで学友たちの心を開き、今では勇者を召喚し格式ある武闘会で実績を残した令嬢として、一目置かれている。


(ショワ様……私、幸せになりますわ)


 別れ際にした彼との約束を守れると小さく微笑み、フィアンセの待つ場へ向かう。今度は部下のグライザに見合い話でも持ってきて、幸せのお裾分けをしようかなとか、そんなるんるん気分で行ったマレーナを待っていたのは、


「……あの、ハーキン様……そちらの女性は?」


「気安く我が名を呼ぶな! 汚れた脳筋女が!」


「え、ええー……?」


 突然の罵声、マレーナは困惑の声を漏らし、周囲の学友たちもどういうことかとざわつき始める。


「これまでお前の力があれば色々と便利だろうと、下手に出て政略結婚のための付き合いを進めてきたが、私は目覚めたのだ! 真実の愛に政略や身分の違いなど不要であると……」


「あの方、どこかで……」

「ほら、先月一つ下の学年に編入してきた特例生ですわ」

「ああ、特異な魔法が使えるということで特別に編入を許された平民の」


 望んでもいないのに学友たちがハーキンの腕にしなだれかかっている少女の説明をしてくれている間、マレーナは思考を巡らせる。


(ええと、これはつまり、ハーキン様は私との婚約など最初から望んでいなくて、それでも貴族としての責務は果たそうとしていたけれど、自称真実の愛に目覚めて覚悟を決められた、ということ……?)


「もうウンザリなんだよ、たかが少し召喚魔法と武術に長けるだけの貴様と並べられるのが! 好きでもない女を伴侶として褒め称えられるなど、反吐が出る思いだった!」


「そ、そこまででしたの……? もっと早く言ってくださればこちらからも然るべき対応を」


「はっ! 無実の商人や貴族を力で捩じ伏せ投獄させた貴様の言葉など、誰が信じられるか!」


「……そういえば、ハーキン様のお父上って」

「あの闘技大会で処分された貴族の一人と友人だったとか」

「風の噂で聞いたことがありますわね」


「……あー、そういう感じですのね?」


「ともかく、俺はこの愛するアイリーンと共に生きると誓ったのだ! 父上もお許しをくれている!」


「はぁ、では婚約は破棄するということで、よろしいでしょうか?」


 なんだか上手くやっていけそうな婚約者ができて幸せになれると思っていた期待が裏切られたよりも、目の前にいる貴族子息がいつぞやの伯爵と被って疲れてしまった。だが、事態はそれだけでは終わらなかった。


「当然だ……だが、俺は油断しない男だ」


 直後、ぱちんと彼が指を鳴らした。すると、慌ただしい足音がパーティ会場の外から響いてきて、ばんと扉を破壊して武装した兵士たちが流れ込んできた!


「こ、これは何のおつもりで!?」


 悲鳴をあげて逃げる学友や令嬢たち、慌てふためく子息たち、それらを睥睨してハーキンは笑う。


「お前のことだ、また力に任せて俺に逆恨みを……それこそアイリーンに危害を加えかねないからな、侯爵家の人間として、愛する婚約者は守らねばならない!」


 ざっと対象を包囲する騎士たち、盾に剣まで装備しているフル装備の相手十数人に、流石のマレーナも冷や汗を流す。


(鍛錬を怠ったつもりはありませんが、流石にこの人数は……!)


「流石の貴様も、この俺の近衛騎士団には勝てまい、素直に投降するなら、学園追放だけで許してやるぞ?」


「貴方に、そこまでの権力が?」


「あるさ、お前と違って私は侯爵家だからな? 元没落令嬢?」


 嫌味たらしい笑みを強めたハーケンが捕縛の号令を出そうと手を振り上げる。ここまでか、そう諦めかけたその時、またしても会場の外から轟音が鳴り響いてきた。


 だが、それは人の足音ではない。ぶろろろろろと言う獣の唸り声のような、しかし違うような音が、どんどん近づいて来る。その場にいた全員が怪訝そうな顔をする。マレーナだけは、皆とは違う意味で、


「この音は、まさか──」


「ええいなんだっていい、早くその筋肉女を捕えろ!」


 ハーケンが怒鳴った直後だった。すでに開け放たれていた扉の横の壁をぶち抜いて、それは現れた!


 鉄の塊で出来た二輪の乗り物、大型バイクに跨って、ダウンジャケットを身に纏い黒いサングラスの奥から鋭い眼光を放つ、筋肉ムキムキマッチョマンの漢……それが誰なのか、マレーナだけは知っていた!


「し、ショワ様!!」


「……あいるびーばっく」


 バイクから降り、サングラスを外した漢は、見間違えるはずもない勇者であった。すでに契約を終えて世界から消えたはずなのに、彼はやってきた。どうしてか? それは至極単純明快なこと!


「どうして、どうやってここに?」


「お前の家が危機に陥ったとき、俺は再びやってくる、そういう契約だ」


「……また、私を助けてくれますの?」


 思わず感涙で目尻に涙を浮かべた少女に向けて、勇者は頷いた。


「当然だ、我が友よ……次からは、長い付き合いになりそうだ」


 にっと微笑む彼に、マレーナも笑い返した。


「そうみたいですわね、さて……」


 まさか本当にあの勇者が? 怯え慌てふためくハーキンと騎士たちに向けて、マレーナは声高々と宣言する!!


「皆様お待ちかね、マレーナと勇者ショワの武勇伝、第二幕の始まりでしてよ〜!!!!」


「ヌォォォォッッ!!!!」


 その日、学園に併設されている多目的会館の半分が崩壊した──


《勇者召喚で一発逆転しようとしたら顔が濃いマッチョが出てきて闘技大会が世紀末でしてよ!? ~わたくしのお家復興は覇王に託されました~ おわり》


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【作者コメント】

 ここまでの拝読、ありがとうございます。

 短い作品となりましたが、最後まで読んでいただき嬉しい限りです。もし少しでも面白いと思っていただけましたら、フォローや☆評価、コメント付きレビューをいただけますと嬉しいです。

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勇者召喚で一発逆転しようとしたら顔が濃いマッチョが出てきて闘技大会が世紀末でしてよ!? ~わたくしのお家復興は覇王に託されました~【10話完結】 @H_H

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