第73話 義弟家、ローンの支払いで揉める

 以前、失踪騒ぎを起こした義弟の奥さんだが、その後何事も無かったかのように戻ってきた。義父母は『面の皮が厚い』などと言って散々文句を言っていたが、義弟は嬉しそうだった。


 裁判を起こすという話も無くなり、それはそれで良かったのだと思う。奥さんが納得して戻ってきたのなら、外野がとやかく言うことではない。


 周りは一安心してやっと穏やかな生活を送れると思っていたが、戻ってまたすぐに上手くいかなくなってしまった。義弟の鬱病が悪化し、奥さんに家から追い出されてしまったのだ。それを受け入れざるを得ない義父母も非常に難しい対応を迫られていた。


 一つ目の課題は夫の暮らすスペースを確保しなければならないこと。もう一つは義弟家のローンの支払いである。元々はペアローンだったが、奥さんが結婚して早々に正社員の仕事を辞めてしまったため、かなり大きな返済額を義弟が一人で負担していた。


 義父は連帯保証人になっていたので、支払えない状況になったら代わりに返済するしかない。たとえそれが年金生活者にとっては厳しい額でも、滞れば自分たちにも影響が出ることは明らかだった。


 最初は言われるがままお金を出し、毎月数十万円を渡していた。しかし、そうこうしているうちに自分たちの息子はまだ真新しいマンションから追い出されてしまい、住んでいるのは奥さんだけになってしまった。その状況でも少しの間払い続けたことに心底驚いた。


 このままでは義弟の奥さんのためにせっせと貯金を取り崩すことになってしまう。しかも、そんな状況になっても週2~3回のパートから変わろうとせず、自力で返していこうという気持ちは皆無のようだった。


 

 義母から状況説明を受けた時、『このままでは両方破綻してしまいますよ』と言ったのだが、そう伝えたところで『それならどうすれば良いっていうの?』という感じになってしまい、結局は何の力にもなれない私が口を挟めない雰囲気になった。


 余談だが、夫は弟とはあまり仲が良くないので、自分の貯蓄を差し出して少しの間だけでも助けてあげようという気持ちを持つことはない。二人の仲の悪さを知っている義父母は、この件に関して夫が口を挟もうとすると『部外者は黙ってろ』というスタンスになり頑なだった。


 毎月のローンの他にも、月々の生活費を奥さんから要求されていた。なぜが強く言えない義父母は、せっせと彼女の元にお金を運んでは、目の前で『これは私のお小遣い』と間引かれるのを黙って見ていた。



 広いマンションにたった一人で暮らすようになり、さぞかし充実した日々を送っているだろうと思っていたのだが、実際にはそうではなかったらしい。元々料理をする人ではなかったのだが、一人になってからはキッチンを使うこともなくなり、掃除もいつやったか覚えがないくらいに部屋は薄汚れた。


 綿埃の舞う部屋に足を踏み入れ、こんな場所に息子の奥さんを住まわせるために何十万も渡している自分たちが馬鹿らしくなったに違いない。


 ある日突然、『もうこれ以上は出せない』と言い出し、義弟の奥さんは慌てた。求めればずっと出してくれそうな雰囲気があったのに、急な態度の変わりように狼狽え、自分の力になってくれない義弟をなじった。


 それを見た義父母は更に激怒し、彼女に『出ていけ!』と言った。


 吐き捨てるように『出ていけ!』と怒鳴って部屋を後にし、それから1週間が経った頃だった。義弟に『出ていくから離婚届けにサインして欲しい』と電話があった。



 その後は家族会議が開かれた。義父母と夫の意見は『もうこれ以上マンションを持ち続けるのは難しい』というものだったが、これに義弟は抵抗した。マンションがあれば、また奥さんが思い直して戻ってくるかもしれないと思ったようなのだが、皆に却下されて結局は売却することになった。


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悪魔の家 つくし @toukou-55

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