第21話初めての冒険者クエスト2

「おいおい……神田、大丈夫か」


オイスター高原の入口で、カンダはリクの手を取り、立ち上がる。

私もすぐさま下馬し、カンダに駆け寄る。


「カンダ!大丈夫か?

どこか怪我とか……」

「……これが、ホールドワイバーンか」

「……転んだ後にそんなキメ顔よくできるな」

「これは……強敵だね」

「もう突っ込まないぞ」


──────

「よし、まず作戦はこうだ」


オイスター高原の地図を広げて、リクは続ける。


「まず前衛は嬢ちゃんに任せる。

その装備、殺戮専門研究所ヘパイストスのとこのもんだろ。なら死ぬことはまず無い。

ホールドワイバーン相手に特攻を仕掛けてくれ」

「あぁ、分かった」

「次にカンダは……近くで見守って、俺達二人が危なくなったら頑張って助けてくれ」

「……なんか雑じゃない?」

「お前の運は戦力になる。

絶対にな」


カンダが首を傾げる。

確かに、あいつの運はぶっ壊れてはいるが、流石に戦力と言えるほどではないだろう。

……おそらく、多分。


「あぁ、えと……西隆寺クンがそこまで言うなら」


──────

壊れたカンダをよそ目に、眼の前の敵を見据える。

巨大に見合った翼を広げ、ラピスラズリのような瞳をこちらに向け、低く唸る。

やがて咆哮となるであろうその声を聞く前に、飛び出す。


「先手必勝!」


『モード 強打撃バレット


体が宙へと舞い上がる。

おそらく、殺戮専門研究所ヘパイストスで作ってもらった装備の影響だろう。

体が異様に軽い。

肉体の躍動に身を任せ、かかとを振り上げる。


「グラァァァァァ!!」


体を低くかがめ、低空飛行の体勢を取ったからだろうか、攻撃は容易にホールドワイバーンを地面へと叩きつけた。


「ナイス嬢ちゃん!」


リクがホールドワイバーンの頭を切り落とそうとする。


「俺が締めと行きますかッ!!」

「──危ないっ!!」


その瞬間、ホールドワイバーンの口が上空へと向けられる。


「マズっ……」


リクは明言していなかったが、ホールドワイバーンは、体内の魔力をエネルギーとして利用し、火球を放つことができる。

だが、人間などが使う魔法とは異なり、魔力を燃やしているだけなので、燃費が悪く、また溜めも長いため、そこまで脅威とされていないのだ。

まずいまずいまずい……

考慮していなかったため、対策の打ちようがない。



「あっ、やっぱりボクって運がいいんだなぁ」


そう言ってカンダはホールドワイバーンの口の中に何かを投げ込んだ。


ものすごい轟音と共に、突風が吹き荒れる。

はるか上空にいる自分でさえ吹き飛ばされたその風は、ホールドワイバーンとリク、そしてカンダを飲み込む。


「みんなっ……」


着地。遥か上空から地上に激突しても、身体は何ひとつ悲鳴をあげなかった。

装備一つ違うだけでこれだけ変わるのかと、騎士団時代のホールドワイバーン討伐作戦を思い出す。

あの時は何人死んだか覚えていない。

カンダ……リク……死んでいてほしくないが……


「この植物は基本日光の当たる高原にしか存在しなくてね、太陽光をエネルギーとして魔力を生成し、その魔力と地下からの水を使って酒を生み出す。

それは、ウツボカズラの捕虫袋みないな袋の中に溜められるんだ。

それでね、開けて少し舐めてみたんだよ……」



「まさかスピリタスなんてね」


煙が晴れる。

そこには、植物に手を添えながら気持ち悪いほどにニコニコしたカンダと、首を切り落とされ、首より上が丸焦げになっているホールドワイバーン。

そして、さも当たり前のようにマサカリを背負っているリクが、首の前に鎮座していた。


「あれ、首が落ちてる……

やっぱりスゴいや、西隆寺クンは……

ボクなんかよりずっと凄いや」

「……お前は創立メンバーの一人なんだからもう少し胸を張れよ。

それに、お前の運と知識がなけりゃ、俺達は負けてたよ。ありがとう」


これでクエスト完了……と、言ったところか。

だが、このオイスター高原の状況から、かすかな違和感を覚える。


「……なぁ、この一匹だけか?

確かに、群れから離れた一匹のホールドワイバーンが田畑を荒らす話はあるが……

その場合小さな巣があるはずだ。ではなぜ……」

「あぁ、たしかに妙だ……だが、クエストの討伐内容はホールドワイバーンの討伐だ。

一匹も二匹も書いてな────」


轟音が響く。

ありえないほどの轟音。

先ほどとは打って変わって、2つの雄叫びが聞こえた。

その音はやがてこちらへと近づき、形をなしていく。


「おいおい……もしかしてあれが子供だったパターンか……?」

「うそっ……」

「これは……逃げるしか無いね」


ホールドワイバーンの名前の由来は、強力な巻き付き攻撃だけではない。

親は子供がどこにいようと、その死を察知し、復讐を試みる。

束縛と、執着心が強いワイバーンなのだ。


「早く馬に乗れっ!

誰も遅れんなよ!」


リクの声と共に、私達も逃げる準備をする。


「召喚法術  『ジバリスク』!」


祝詞を省略するため、手の甲に描かれた魔法陣を掲げた。

すると、地面は2つに割れ、大きな大蛇の目がこちらを覗いてくる。


「足止めしてくれっ!ジバちゃん!!」


シャァァという鳴き声とともに、ジバちゃんは二対の龍に向かって、毒牙を携え突進する。

地面にいるジバちゃんは、低空飛行しているホールドワイバーンの首を容易に捉えた。


「よしっ、このまま……」

「いや!このままオズガルドまで直行する!!

あそこの防衛機構が無料で皆殺しにしてくれるだろう!」

「防衛機構……?」

「後で説明する!」


抗うジバちゃんは、あえなく二対に圧倒される。

ジバちゃんは一応死ぬことはないが、見ていてくるものがある。

暫く走ると、オズガルド科学共同体が見えてきた。


「オズガルド科学共同体と外の境界線を越えれば、魔物は基本入ってこれない!

それに、入ってこようとするものは、防衛機構で殺傷される!!

まぁ見てろ。面白いもんが見れる」


その後聞いた話なのだが、オズガルド共同体は、ある物質で都市を覆い、都市から漏れ出る音や空に漂う有害物質。それから、外からの異常な干渉などを防ぐ役割のシールドを張っているのだそうだ。

そのシールドが反応を示した場合のみに発動する防衛機構。

私は初めて目にした。いや、初めてではないが、改めてそれを実感する。

黒い雷光が龍を貫く。

一匹は、黒い来雷光により、一撃で葬られたのだろう。10本目あたりが体に触れた瞬間、ぐったりと翼をおろした。

低空飛行で私達に突っ込んできたもう一匹も、銃口らしきものが向けられた瞬間、体を硬直させ、目を閉じた。

一瞬のことだった。

3人の力が噛み合ってやっと子どものホールドワイバーンを倒せたというのに、二対のホールドワイバーンを、一瞬で倒してしまった軍事力・科学力に圧倒される。


──たしか、この国が最後までうちの国に支援物資を送ってくれていたんだっけ。

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呼び出しされて不死身勇者になったはいいが、世界が宗教に滅されかけている件~異世界不死身放浪記~ 鏑木アオイ @ssyaku-ru

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