第20話初めての冒険者クエスト
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「……テレビでもつけてみるか」
「てれび?」
頭の上にはてなマークを浮かべる私をよそに、カンダはりもこん、と呼ばれる機械を操作し、てれびなる機械を光らせた。
機械で機械を動かすとは……これまた
別に、ダジャレでもなんでもないからな。
無いからなっ!
「今日のニュースです。
人攫い件数が今月増加、もっと増える見込みか。
今日未明、ギャラリー工房に勤務中のマーキュリーアシュリー氏が何者かによって攫われる事件が起こりました。
有名な武器工房を狙った報告が多数報告されており──」
「なんだ、ボクらには関係ない話だね……
って、もうこんな時間か」
「……てれび?」
「……これも説明しなきゃだめかな?」
カンダの説明によると、でんきしんごうと光の関係がどうたらこうたららしい。
どうたらこうたらという言葉を使うには、とっても深い事情があるのだが……まぁ、それは後でにしておこう。
「……なるほど、分かった、なんとなく」
「えっと……絶対分かってないと思うけど、あえて触れないでおくよ、ハハ……」
死んだ目でつぶやくカンダ。
……どうしたのだろう。
「じゃ、僕はもう寝るよ。
テレビを見るなり寝るなり……好きに過ごして」
「あぁ、私ももう眠いからな、寝させてもらうよ」
そして私は、深い眠りについた。
──────
「おはよう、アルフレッドクン」
「……お前は人の顔を覗き込まないと死ぬ病気にでもかかっているのか?」
「あぁ、ごめんごめん、別にそういうつもりじゃなかったんだけど……」
「まぁいい、私は素振りを始めるから、邪魔はしないでくれ」
そう言って、寝起きの頭を覚ますため、自身の見繕ってもらった両手剣を手に取る。
「昨日は友達になろうなんて言ってきたのに、冷たいね」
「うるっ、さいっ、邪魔はっ、するなとっ……言ったはずだっ」
カンダは「そっ」と言い、洗面所へと向かった。
邪魔が入らないと分かった途端、集中力が上がる。
体が火照る。
やはり、寝起きの運動は体に良いのだろうかと、一人思案する。
やがてその雑念すら消え失せ、素振りの回数が10000回を超えようとしたその刹那──
「よぉ!調子はどうだい?お二人さん」
「あっ、西隆寺クン!」
素振りくらいゆったりとやらせろと、一人頭の中で嘆き、私は10000回目の素振りを終えた。
「で、なんのようだ?リク」
「いや、調子はどうかって聞きに来ただけだよ。
それに改めて考えたんだが……タダで寝床を与えるのも良くないと思ってな。
今日はお前達は俺の仕事の手伝いをして貰いたい」
なるほど、確かに。
何もせずにただ飯と一級品の寝床が与えられるのは私も気が引ける。
おそらく、そこに気を使ってくれたのだろう。
「あぁ、こちらは住ませてもらっている身だしな。
私達にできることであれば何でも手伝おう……
カンダはどうする?」
「ボクが何の役に立てるかは分からないけど、何もせずに部屋を借りるのは流石に気が引けるからね。
行くことにするよ」
「分かった。じゃあまずは、今日の予定を伝えよう」
リクはメモ帳らしき物を見せ、大雑把なスケジュールを教えてくれた。
中には人攫いのクエストのような盗賊ギルドのクエストもあったが、流石に私は騎士道に反すると思い、断った。
カンダも、『西隆寺クン、流石にそれは……』と、若干引いていた。
「じゃあ今日は、9時半にオイスター高原でホールドワイバーンの駆除、12時に昼食を取って、午後3時はキシシマ湿地でコケモモの採集だ」
「コケモモって……あぁ、あの滋養強壮で有名な」
「良く知ってるな、嬢ちゃん。
そう、王族御用達のおクスリの元となる薬草だ」
「あれ?コケモモって……まぁいいっか」
カンダはどうやら、コケモモに引っかかっているらしい。
「どうした?カンダ」
「あぁ、いや……なんか、聞き覚えがあってね。
ごめん、何でもないよ」
私が怪訝な表情を浮かべると、『やだなぁ』と言って、リクの方へと向き直った。
「それはともかく、ホールドワイバーンか……
西隆寺クン、ボクみたいな足手まといがいても大丈夫?」
ホールドワイバーン。
凶暴かつ、低空飛行による体当たりと、蛇のような尾による巻き付きが脅威とされる大型の魔物だ。
騎士団の教えとしては、纏まって戦うよりも、散開して集団で巻き付かれないように戦うべきである。
3人じゃ心もとない……それにカンダは、とても戦えるようなタマではないだろう。
少なくともカンダが足手まといになってしまうのは確かであった。
だがしかし、リクは心底不思議そうな顔をした。
「いや、お前が一番大事だ。
というか、このクエストを受けた理由の半分はお前がいるからだ」
「えっと、良く分かんないんだけど……
ボクの良いところなんて、運が人より少し良い位なんだけど……」
「自覚がないなら、その自信のなさも当たり前か」
一拍おいて、リクが話す。
「じゃあ、9時半にオイスター高原で」
────────
広く、どこまでも広がるとも思えた黒い空は、オズガルド共同体の領土を踏み越えた瞬間、青い空に変わる。
あとから聞いた話だが、まだ産業がそれほど発達していなかった頃の名残が、空を漂っているらしい。というか、産業が未発達の頃に出していた有害物質を全てオズガルドの上空に留まらせて、クロウエノ大陸の環境破壊を防いでいるのだそうだ。
そこからはクロウド森林を越えた先に、田んぼが見えた。
その先にあるオイスター高原に住み着いたホールドワイバーンが、田んぼを荒らししているそうだ。
確かに、美しい田んぼの風景のなかに、ポツポツと荒らされていることがうかがえる形跡があった。
「きれいな風景だね」
「あぁ……だが、ところどころ荒らされた形跡があるな」
「この田んぼを抜けたら、オイスター高原だ」
リクから借りた、ソニックブースターという魔法をかけられた馬具をつけた馬を走らせながら、オイスター高原へと向かう。
「おいおい……」
とうとう、田んぼがなくなり、低木に囲まれ、草が生い茂る高原地域に入ると、大きな雄叫びが聞こえてきた。
「ホワイトワイバーンの叫び声……!」
「うッ!!」
横を見やると、さっきまで普通に乗馬していたカンダの姿が見えない。
そこには、カンダが乗っていた馬だけが残っていた。
「カンダァァァァ!!」
「こ、ここだよ……」
ゴッ───
「あっ」
「……ボクはツイてないなぁ」
道端に転がっていたカンダは、私が騎乗していた馬に蹴られ、空へと飛んだ。
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