第20話 壁ドンと、それ以上の衝撃
「なになに? 私、魔力ある? どれくらいあるの?」
イリアは、私の質問を無視して、私の手をとった。
私は、一瞬どきっとしたが、イリアの顔が真剣なので、口を挟まないようにする。
(もしかして……何か、ものすごい力を持っているのかしら?)
私は、どきどきしながらイリアの様子を見守った。
イリアは、無言で、腕輪をくるくると回して見ている。そして、何か考え込むような仕草をした後、さっと私の手首から腕輪を外して、自分の懐へしまった。
「あなたに魔法は無理ですね。諦めてください」
「ええっ?! どういうこと?
今、腕輪、光ったわよね? 魔力が少ないってこと?」
「そうです。だから、諦めてください」
「そんなぁ……なんとかならないの?」
(魔法が使えるかと、期待したのに……)
「……訓練で魔力量を増やすことはできます。
ただ、そのためには、まず魔法の基礎を学んで頂く必要があります」
「魔法の基礎?
魔法が使えるようになるなら、何でもやるわ!
どうしたらいいのか、教えて!」
「……本当に、何でもやりますか?」
イリアの右目に付けているモノクルが、きらりと光った。
「ええ、やるわ! 女に二言はなくってよ!」
♡ ♡ ♡
「やっぱり、前言撤回~……女に二言は、あったわぁ~…………」
私の情けない声だけが、誰もいない広い図書館に響いて聞こえる。
イリアは、何でもやると言った私を、王宮の敷地内にある、この図書館まで連れて来た。そして、本棚から分厚い書物を何十冊も引き抜いて、机に並べて言った。
『これらの本には、魔法の基礎についての全てが書かれています。
ここにある本を全て読破したら、魔法の使い方を教えましょう。
まずは、理論から頭に叩き込んでください。
もちろん、ただ読むだけでは、ダメですよ。
ちゃんと理解しなければ、意味はありませんからね』
山のように積まれた分厚い書物を前に、私は途方に暮れている。
先程まで傍にいた筈のヴィヴィアンも、この本の山を目にした途端、顔を引きつらせて、どこかへ消えてしまった。女の友情とは、こうも儚いものなのか。
一時は、ヴィヴィアンとの友情に感動すらしていたのに、ひとり置いていかれたことで、恨みの感情すら沸いてくる。
『わからないことがあれば、私の執務室へ来てください。
場所は、城の者に聞けば、案内してくれるでしょう』
と、最後にイリアは、私に言った。
「わからないことがあればって…………わからないことだらけよーっ!」
他に誰もいないと思っていた私は、大声で不満の声を上げた。
すると、背後から答える声がある。
「何が分からないんだ?」
聞き覚えのある男の声だった。私は、嫌なデジャブを感じた。
恐る恐る背後を振り返った先に、デュロイが立っていた。
「なっ、なんで、あなたがここにっ……?!」
私は、思わず椅子から立ち上がった。
しかし、デュロイは、私の質問を無視して、前に回り、机の上に置かれた本の山に目をやった。
「『魔法学の基礎』『やさしい魔法の使い方』『これであなたも魔法使い!』『これを読んで魔法が使えなかったら、あなたはサル以下です』『チャーリーズエンゼルパイEpisode1』…………へぇー、なんだ、あんた。魔法使いにでもなりたいのか?」
デュロイが私に、からかうような笑みを見せる。
「あなたに関係ないでしょっ」
「大方、イリアあたりに押し付けられたんだろう。
なんなら、俺が教えてやろうか?」
「け、結構ですっ!」
デュロイが、くくっと喉の奥で笑う。
まるで私の反応を見て、楽しんでいるようだ。
「一体、魔法を何に使うつもりなんだろうな」
デュロイは、含みのある笑みを浮かべて、私を見つめた。
(やばいわね……このまま、ここに居たら、こいつのペースに巻き込まれるわ……)
私は、机の上に置かれていた本の山から、適当に数冊をとって胸に抱えた。あとは、自分の屋敷へ戻ってから読めばいい。
何も言わずに立ち去るつもりで、私は、デュロイに背を向けた。
しかし、デュロイの声が、私に追い
「なぁ、待てよ」
デュロイは、私の腕を掴んで引っ張ると、壁際にある本棚の方へ私の背中を押し付けた。
そして、私が逃げられないよう、もう片方の手で、私の顔のすぐ横に手をつく。
顔を上げたすぐ目の前に、デュロイの美しくも妖艶な笑みがあった。
(こっ、これは……いわゆる壁ドンでは?!)
こんな危険な状況だというのに、つい興奮してしまう自分の性癖が恐ろしい。
(
「……なぁ、あんた。俺と手を組まないか?」
デュロイの妖しいアメジストの瞳が、至近距離で私を見つめている。
まるで蛇に睨まれたように、私の身体は動かない。
(何か答えなきゃ……)
そう思うのに、アメジストの瞳があまりにも綺麗で、目が離せない。
「私は……」
その時、図書館の扉が開く音が聞こえた。
同時に、つかつか、と誰かが入ってくる足音がする。
私は、はっと魔法が解けたかのように、視線をデュロイから外して、助けを求めるように足音の方を見た。
(なっ……ルイ?!)
図書館に入って来た足音は、ルイのものだった。
ルイは、こちらに気付くと、怒りを露わにして、こちらへ大股で向かって来る。
「デュロイ……!
こんなところで、俺のクロエに何をしている?!」
(あんたのクロエじゃねーよっ!! ……助かったけどっ!)
思わず条件反射で突っ込んでしまったが、口には出なかったようだ。
私が黙っていると、デュロイが先に口を開いた。
「俺の……ねぇ……」
やけに含みのある言い方だ。
デュロイは、私の腕を掴んだままルイに向き合う。
「ルイ。一体いつから、そんな誠実男になったんだ?
これまで散々、色んな女に手を出してたこと、
「何のことだっ……!」
(……仕方ないわ。今のルイは、本当に知らないのよ。このゲームをプレイしたことすらないんだから……)
聖女としてゲームをプレイしていた私ですら、ルイ王太子というキャラクターは、乙女が憧れる、理想の完璧な王子様だった。
しかし、デュロイの言うことが本当なら、よほどルイ王太子は、女癖が悪かったのだろう。
『乙女の見る夢』の大ファンである私としては、正直ショックではあるが、今はそれどころではない。
ルイとデュロイが互いに睨み合い、一色触発といった空気の中、別の声が割って入った。
「ルイ殿下っ!」
イリアだった。ルイが開け放った扉から、こちらへと慌てた様子で駆け寄ってくる。
(どうして、こうも次から次へと現れるかなぁ~……)
私が頭を抱えた次の瞬間、イリアの口から衝撃の事実が告げられる。
「聖女が現れました」
♡ ♡ ♡
自分の屋敷へと帰る馬車の中で、アルフォンソは、いつものように黙って私の隣に座っている。いつもどおりの静寂。
でも、何かが違う。
図書館で聞いたイリアの言葉が尾を引いている。
ルイは、それを聞いても、何のことだか分からない顔をしていた。
デュロイは、気を
そして、ルイは、イリアに半ば強制的に連行されて行き、最後に、私ひとりが取り残された。
私は、とうとう来るべき時が来たのだと悟った。
「アルフォンソ。あなたは、私の傍に、ずっといてくれる?」
私は、隣にいるアルフォンソの顔を見上げた。
アルフォンソの黒い瞳が、私を僅かに見下ろす形になる。
相変わらず何を考えているのか分からない無表情だ。それでも、その黒い瞳の奥に、真実が隠されていることを、私は知っている。
アルフォンソは、答えた。
「もちろんです」
**(♥作者より)****************************
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けておりますでしょうか?
良ければ、作品へのフォローや、☆一つでも、置いていって頂けますと、今後の励みになります (人>ω•*) ~♡
☆☆☆……面白い。続きが気になるから、早く書け。
☆☆……まぁまぁかな。今後に期待。
☆…まだ判断できないけど、続きを読んでやってもいい。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次回より、強制シナリオが動き出します。
物語も動き出しますので、良ければ読んでやってください!
**************************************
※現在、別作品『宇宙樹の生贄』をドラゴンノベルス(中編部門)へ応募中のため、
一時的に更新が止まっておりますが、水面下で執筆は継続しておりますので、
もうしばらくお待ちください。
もし宜しければ、『宇宙樹の生贄』の方も応援いただけたら幸いです。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら婚約者が前世で私が手にかけた夫だったので。 風雅ありす@『宝石獣』カクコン参加中💎 @N-caerulea
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら婚約者が前世で私が手にかけた夫だったので。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます