ぐちゃぐちゃな触れ合い

矢木羽研(やきうけん)

粘膜を求める

「ねえ、今日はナマでしてみない?」


ベッドの上でお互い裸になって濃厚な口づけと愛撫を交わし、いざ挿入の頃合いとみて避妊具を用意しようとしたところで彼女が言った。僕たちは付き合って一年少々になるが、セックスの時はコンドームを欠かさなかった。お互い、それが当然であると思っていたのだ。


「せっかく体の相性もいいんだし、粘膜で直接触れ合ってみたいな、って」


僕はゴム無しのセックスというのを経験したことがない。性病や妊娠を警戒してのことだった。だが、彼女が他所から性病をもらってくるとは考えられないし、避妊についても今はアフターピルなどがある。そもそも学生でもないので、そのまま出産を前提に結婚しても問題のない関係である。それでもゴムありセックスを続けているというのは、習慣化した惰性に過ぎないというのは実感している。しかし……。


「ねえ、興味あるでしょ?濡れたアソコ同士を合わせて、ぐちゃぐちゃってかき回すの」


そう言って彼女は、硬くそそり立った僕の一物を見つめる。もちろん、ナマでの挿入は興味がある。これは本能的なものであり、女性を妊娠させるための行為は気持ちいいに決まっている。なのに、なぜ僕はためらっているのだろうか。


「ふふ。あんたのことだから、初めてのナマエッチは新婚初夜がいいとか思ってるんでしょ」


これは割と図星であった。初夜で初体験というのが非現実的な時代、せめて「特別なセックス」を、その夜のためにとっておきたいという気持ちはある。僕にとってはそれがナマ、さらに言えばそのまま中出ししてしまうことだったというのは確かである。


「ねえ、忘れちゃった?今日も特別な日だってことを」


……思い出した。ちょうど一年前、僕たちは初めてセックスをしたのだ。


「思い出したみたいね。あんたって女慣れしてなさそうだから油断しちゃってたわ。あの時は人に見せられる下着じゃなかったのに、あっという間に脱がされちゃったっけ」


何度目かの部屋デート。いつものスキンシップがエスカレートした挙げ句、真っ昼間から事に及んでしまった。彼女は恥ずかしがっていたが、裸になってからはむしろ積極的に求めてくれたっけ。


「あんたがちゃんとゴムを用意してくれる人で良かったわ。それからも絶対にナマでは触れ合うことすらしなかったものね」


実のところ、僕が避妊に気を使うのは元カノの「教育」の成果なのだが、もちろん今の彼女には内緒である。


「でも、あれからもう一年経つし、あんたのこともすっかり信用できるからね。……いいよ?ナマで挿れちゃっても」


僕は覚悟を決めて彼女に覆いかぶさる。だが、今まではゴムが当たり前だったから、外出しなんてやったことすらない。うまく抜けるだろうか。


「もう、外出しなんて考えなくてもいいんだから。むしろ私を妊娠させるつもりで突いてほしいな。……たっぷり、出してもいいよ。私はもうあんたのものなんだから……あんっ」


こうして、ゴムに塗られたローションではなく、お互いの体液が直接絡み合う宴が幕を開けた。ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ。嬌声とともに響き渡るその淫らな音は、いつまでも僕の心に刻まれるのであった。

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